徹の部屋 vol. 2(2009年5月29日19:30〜 東中野・ポレポレ坐)

昨年の「千恵の輪プロジェクト」以来久々に齋藤徹さんのライブに行ってきた。「徹の部屋」は東中野にあるポレポレ坐での隔月企画だそうで、今回はガット弦を張ったコントラバス3台(徹さん、瀬尾高志さん、内山和重さん)の共演だ。
1曲目は2000年にバンドネオンの小松亮太、神奈川フィルとの共演で初演された「タンゴ・エクリプス」。私がこれまで生で聞いたのは2001年の小松亮太3 daysの3日目にコントラバス4台で演奏された時が唯一で、実に8年ぶりの再会ある。徹さんのつかんだタンゴの根源的なものが曲をぐいぐいと押し進め、共演のふたりを巻き込む。巨匠プグリエーセが作り上げたジュンバのリズム、大草原のミロンガと港町のミロンガ・ハバネラ、そしてタンゴとしては破格の5拍子による疾走。洗練とは無縁の、生々しくも力強い生命力を持ったタンゴであった。
2曲目は「E♭チューニング連作」で、変則チューニングによる楽曲を続けて演奏。印象的だったのが最初の「遠くの祭り」で、コントラバスを床に寝かせ、弓を2本使って音を出していた。配布されたプログラムによれば、

「遠くの祭り」では、演奏家の技術やコントロールを使えなくするという方法をとっています。長年演奏していると、無意識のうちにドンドン「演奏」してしまい「表現」してしまうことへの警鐘です。人の思惑が入らない方が音は自由に飛び立つのです。

とのこと。風に乗って漂ってくる音や地面を伝わってくる音を思わせる不思議なひと時だった。以後は普通に立って演奏(弾き方も音も普通じゃないが)。
休憩を挟んでの第二部。プログラムによれば、テーマは「オンバク・ヒタム」、マレー語で黒潮のことだそうだ。5曲が続けて演奏されることになっているが、曲と曲の間に区切りがなく、実際に5曲だったのかどうかは不明。かえるの鳴きまねを合いの手に、弓の代わりにギザギザの棒で弦をこすって音を出したり、細い棒で弦をたたいたり、弦に何かをはさんで糸巻きから風鈴を下げて演奏したり…途中、コントラバスをチン(韓国の銅鑼)に持ち替えてすさまじいリズムの応酬もはさみつつ、ますます普通じゃない弾き方のオンパレード。しかしながら、そこで生み出されるうねり、響き、勢いには聴いている方も自然に体が反応してしまう。アジア各地の題材がどこかでつながっていることを感じつつ、1時間以上の演奏に浸ったのであった。
終演後、店の方が演奏者にインタビューするという、まさに「徹の部屋」の時間もあった。そこで徹さんが語ったのが、入り口で渡されたプログラムに印刷された『「日本海」は大きな「内海」だった』という言葉と地図のこと。何やら不思議に見えるが、よく見ると何のことはない、逆さの日本地図である(富山県が作成した「環日本海諸国図」というもの→こちらで小さいながら実物が見られる)。こうして見ると、日本は孤立した島国ではなく、日本海を囲む大きなつながりの一つなのだ、ということが感じられる。そして、マレーから琉球を経て流れてきたオンバク・ヒタムが日本海側に流れ込み、朝鮮半島、さらに日本海側各地につながっていくこともよくわかる。第二部の音楽のテーマにつながる話で、大変興味深かった。
徹さんのブログはこちら。コントラバスの特殊奏法にまつわる話や、オンバク・ヒタムに関する話など、非常に面白いのでぜひご一読を。
[Posted on 2009-05-31]

徹の部屋 vol. 2(2009年5月29日19:30〜 東中野・ポレポレ坐)” に対して2件のコメントがあります。

  1. よしむら より:

    ほんのちょっとだけ修正しました(徹さんのフルネームが記事の中に一度も登場していなかったので…)。

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