ブエノスアイレスのマリア(2013年6月29日15:00~ 東京オペラシティ)

『ブエノスアイレスのマリア』公演(2013年6月29日15:00~ 東京オペラシティ)から既に一週間が経過。その間に、既にあちこちでこの歴史的な公演に関する文章が発表されている。それらを読めば、既に私が書き加えるべきこともないのだが、自分のための記録として遅まきながらいくつかのこと書いておきたいと思う。
既に何度か書いているように、この演目はもともと2011年3月19日に行われるはずだったもの。前年に公演の予定がアナウンスされた際には私自身大いに期待し、盛り上がった。しかしながら公演の直前、東日本大震災とそれに続く原発事故の発生で、止むを得ず中止に。中止の決定が下ったあと、帰国したゲスト2名を除く演奏者たちは自分たちのために最後のリハーサルを行い、いつか必ず再結集して公演行うことを誓い合いながら解散した、と聞いている。
それから2年数ヶ月、その間にはコントラバスの松永孝義が永眠するという悲しい出来事もあったが、とにかくついに『ブエノスアイレスのマリア』が帰ってきた!
今回の公演メンバーは以下の通り。

アメリータ、ギジェルモ、田中以外は2011年のメンバーと全く同じである。演奏曲目はもちろんアストル・ピアソラ=オラシオ・フェレール作『ブエノスアイレスのマリア』全16場のみ。
ステージに演奏メンバーが並んだのを見ただけでもう目が潤んでしまう。低音弦のアルコが最初の一音を奏でた瞬間に鳥肌が立つ。小悪魔の第一声で震える。正直なところ、最初から平常心を失っていたことは事実ではある。だが彼等の演奏は、その入れ込み過ぎの感情を軽く受け止め、それ以上の高みへと誘ってくれた。中でも特に圧倒されたのが小悪魔役、ギジェルモ・フェルナンデスの語りだ。美しく深みのある声で、抑えた哀しみからあふれる怒りまでを自在に表現。オリジナル録音でのオラシオ・フェレール自身による語りをも超えている!
そして、この人の存在こそがマリア!というアメリータ・バルタール。姿を現した瞬間からステージは彼女のためのものになってしまった。ハスキーで魅力的な歌声は45年前と同じ。それ以上に場の進行に従ってどんどん神がかって行く歌唱のすごさ。
これら二人があまりに圧倒的で、その分やや目立たなかった感のあるレオナルド・グラナドスだが、彼のひたむきで堅実な歌唱は役柄にもぴったり。
演奏のTokyo Tango Dectetは、楽曲の土台にしっかりと横たわるタンゴを、そのリズムのうねりから精神性に至るまで余すところなく表現。タンゴに対する深い理解と愛情を全員が共有しているからこその素晴らしい演奏だった。
さらに、複雑で難解な詩を、ただ言葉として素直に感じ、受け止めることができたのは、比嘉世津子の字幕訳詩のおかげ。彼女も最高の共演者だったといえるだろう。
最後のクライマックスに向かう前の「精神分析医のアリア」「小悪魔のロマンス」のなんと美しいこと。続く「アレグロ・タンガービレ」「受胎告知のミロンガ」で一気に盛り上がり、そして最終場「タングス・デイ」冒頭で今一度暗く沈み込む。そこから徐々に緊迫感を増し、取り様によっては救いのない輪廻、あるいは取り様によっては未来への希望とともに迎える結末。
ただただ、最良のコンサートだった。


なお、この日のコンサートはライブ録音され、2013年8月28日にCDとして発売される予定。

ブエノスアイレスのマリア(小松亮太)

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出演者自らが書いた本公演に関するブログ記事はこちら。

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