飯泉昌宏トリオ+1 (2001.7.6)

データ

曲目

第1部

第2部

アンコール

所感

昨年 (2000年) 9月20日以来充電期間に入っていた飯泉昌宏トリオ+1の久々のライブ。 今回は従来のピアソラ作品に加え、 充電期間中に飯泉が書き溜めたオリジナル曲が半分近くを占めるプログラムであった。

まずは彼等の定番、「トロイロ組曲」からスタート。 久々のライブということもあり、最初は若干硬さも見られたが、 酩酊状態を擬した混沌へと向かう「ウィスキー」あたりから徐々にパワーアップ。 「エスコラーソ」もタイトに決まり、まずまずの滑り出しであった。 続いて矢野祐子が登場し、「チキリン・デ・バチン」「迷子の小鳥達」を歌う。 変わらぬ声の深みと説得力はさすが。

そして、待望の飯泉オリジナル作品の登場である。 まず#3と番号だけが付いた曲で、 アルゼンチンのフォルクローレの一形式であるチャマメという6/8拍子のリズムを取り入れたもの。 さらに#4は飯泉曰くややタンゴ風ということだが、 一部で6/8拍子のパートがある。

休憩をはさんでの第2部、一曲目は飯泉のギター・ソロによる「ノスタルヒコ」、 続いて激しい展開の「イマヘネス676」のあと、再び飯泉のオリジナルが続く。 #2にあたる「エル・カミーノ」は一部チャカレーラ風、 「ノスタルヒコ」の作者でもあるフリアン・プラサに捧げた#1「フリアン」は、 唯一充電期間前に書かれていた曲で、やはり6/8拍子。 ここまで登場した飯泉のオリジナル曲は、 いずれもフォルクローレとジャズのフュージョンといった趣きで、 ピアソラの音楽に取り組む際の厳しさ、 激しさとはちょっと異なる方向性を見せていた。 普通のフュージョン・バンドの編成で演奏してもかなり合いそうな雰囲気を持つ一方、 ギターならではのアルペジオを駆使したフレーズ、 ツイン・ギターを生かした対位法的展開など、 あくまでギターにこだわる姿勢は一貫している。

続く#7は、一転してオーネット・コールマン風フリー・ジャズ系の音楽。 ここで再登場した矢野の声の存在感は圧倒的で、 混沌の中にも曲の展開に一つの強い方向性と必然性を示していた。 さらに「海へ生こう」では再び大きく雰囲気が変わり、 アルゼンチン・サンバ風のリズムで、子供の夢を乗せた優しい詞と曲想が心に残った。 矢野が歌いながら叩くボンボ (アルゼンチンのフォルクローレで使われる太鼓) がとても効果的で、眼前に絵が浮かぶような印象的な曲であった。 オリジナル集の最後を飾る「旅に出たお前」は、飯泉と矢野のデュオで、 静かな寂しさが胸に迫る作品。

ラストはこのグループの魅力を最も良く表している「スム」。 活動休止直前のすさまじい迫力には若干及ばないものの、 執拗なリズムの繰り返しが聴く者を巻き込んで行く力は健在であった。

アンコールは自由な展開が気持ちの良い「リベルタンゴ」。 自由にやり過ぎてちょっと危い場面もあったが、爽快な演奏だった。

全体に、この編成では久々のライブということもあり、 やや手探りの感があったことは否めない。 特にオリジナルに関しては、そもそも人前での演奏は初めての曲ばかりで、 細部の調整が必要なのは止むを得ないことであろう。 一方で、それらを差し引いてもなお、 一連のオリジナル曲はなかなか魅力的である。 料理法次第では普通のフュージョンになりかねないところが微妙だが、 今後の展開には大いに期待したいところ。

そして矢野の声の偉大さ! このグループの大きな財産であろう。

[2001年7月22日(日) 記]


吉村俊司(東京都)

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最終更新:2001.07.24