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東京ピアソラランド-ピアソラ没10周年トリビュート(2002.7.4)


よしむらのページ音楽的実演鑑賞の記録:東京ピアソラランド-ピアソラ没10周年トリビュート(2002.7.4)


データ

曲目

第1部

第2部

アンコール

所感

7月4日はピアソラの命日で、今年(2002年)はちょうど没10周年にあたる。この日に行われたライブ「東京ピアソラランド」も、「ピアソラ没10周年トリビュート」というサブタイトルがついていた。場所はここ数回のライブですっかりおなじみとなったスイートベイジル

最近の東京ピアソラランドはピアソラ以外の楽曲にも積極的に取り組んできたが、この日はやはりサブタイトルが示すように特別で、ほとんどがピアソラの作品ばかり、しかも新レパートリー、新アレンジの曲も多く、興味深い内容であった。まずはそれらの新しい試みについて振り返ってみる。

個人的に最も印象に残ったのは第1部2曲目の「イマヘネス676」。これまでO.K. Strings (Quartet)の十八番として、弦のみで演奏されてきたレパートリーだが、今回は四重奏での演奏である。途中までは、この曲にしては随分と端正な演奏…と思っていたものの、終盤に6拍子に変わってからは凄かった。ピアノのフリーなソロでは肘打ち、拳打ちが炸裂し(ヘラルド・ガンディーニか山下洋輔か)、それにヴァイオリン、バンドネオンも絡んでどんどん壊れて行く快感。そんな中でもしっかりとリズムをキープする東谷のベースにもある種の凄味があった。同様に、第1部の最後に演奏された「チン・チン」も、スピード感あふれる演奏と終盤のピアノによるインプロヴィゼーションに迫力があった(どうせならもっと長くやってほしかった気もするが)。即興性を前面に打ち出したという点で、これら2曲は新たな境地と言えるだろう。

もう一つの新しい試みは、ギターである。東京ピアソラランドはこれまでギタリストを加えて演奏したことがなかったが、今回は初めてギターを入れて、ピアソラ・キンテート(五重奏団)と同じフォーマットでの演奏に取り組んだ。迎えたゲストは若手クラシック・ギタリストとして活躍中の鈴木大介。

キンテートで演奏されたのは「ブエノスアイレスの冬」と「ブエノスアイレスの夏」、それに上記の「チン・チン」である。従来のピアソラランドでも、ギターなしながら「冬」はキンテートのアレンジに比較的忠実に、「夏」は大編成で、それぞれ演奏されてきたが、やはりギターが入ると中低音の充実ぶりが全然違う。鈴木が普通のクラシック・ギターではなく、セミソリッドなボディのエレクトリッククラシック・ギターを使用したのも正解であろう。本来エレクトリック・ギターで弾かれる対旋律やコードは、クラシック・ギターならアタックだけが目立ってあまりアンサンブルに寄与できなかったはずだが、今回使用されたギターでは音の持続が長く、エレクトリックと同様の効果をもたらしていた。比較的地味な(でも結構難しい)パートを堅実にこなしていた鈴木の演奏にも非常に好感が持てた。

これに先立つ鈴木のソロでは、ギター組曲「五つの小品」からの抜粋が演奏された。「コンパードレ」での楽器を叩きながらの演奏のリズム感が良い。一方、その次の「バンドネオンとギターとベース」は北村、東谷、鈴木というトリオによる演奏で、このライブならではの企画と期待したが、、残念ながら今一つ前に進む力が弱い、というか、とにかくノリが良くなかった。

この他の新レパートリー、新アレンジとしては、第1部1曲目の「カリエンテ」はピアソラにしては比較的明る目の曲想がオープニングにふさわしく、また破滅型の天才音楽家に捧げられた第1部3曲目「アルフレド・ゴビの肖像」は素晴らしいChicaのヴァイオリン・ソロが涙を誘う名演であった。第2部2曲目の「アディオス・ノニーノ」はピアソラ自身が晩年に書いたバンドネオンと弦楽四重奏のための編曲。

一方、従来からのレパートリーでは、第2部の最初に演奏された「タンゴ組曲」が何度聴いても惚れぼれする出来であった。本来はギター二重奏のための組曲を、Chicaが弦楽四重奏にアレンジしたもので、特に「アンダンテ」でのヴィオラ、チェロが歌うメロディーの美しさと、「アレグロ」でのスリリングな展開とのコントラストが良い。

完全にレギュラーのレパートリーとして定着した感のあるエドゥアルド・ロビーラの作品は、クラシック指向の「ピアノとオルケスタのために」も良いが、やはり「ソニコ」は前衛的魅力満載で文句なしにカッコ良い。世界で一番たくさん「ソニコ」を演奏しているバンドネオン奏者、と紹介された北村も、この日一番の冴えを見せていた。

「酔いどれたち」の格調高い美しさ、「現実との3分間」のスピード感、リズム感も見事。

アンコールは鈴木も加えた全員で熱気あふれる「革命家」。さらに拍手が鳴り止まず、もう1曲オープニングと同じ「カリエンテ」で締め括られた。

今回の新しい試みのうちギターの導入に関しては、どちらかというと没後10周年にちなんだ特別なケースで、今後再びギターが入ることがあるかどうかはわからない。ただ、今回聴かれた中低音の厚みはやはり今までとは違う感覚だったので、何等かの形で経験が今後に反映されれば面白いかもしれない。また即興に関しては、タンゴという音楽の枠組みの中でどのように活かすべきか難しい面もあるが、できれば今後も挑戦してほしい要素である。

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