この記事は2002年1月に発行された日本タンゴ・アカデミー機関紙Tangueando en Japón [Tangueando en Japon]に掲載されたものです。
1999年7月に発行されたTangueando en Japón [Tangueando en Japon]第4号にて「タンゴとインターネット」なる文章を掲載して頂いて以来、2年が経過した。この間、インターネットはさらなる広がりを見せ、タンゴに関してもより多くの情報がネット上で得られるようになった。当アカデミー会員にもこの間にインターネット接続環境を整えた方が多いのではないかと思われる。また、インターネットを通じてアカデミーを知って入会された方も少からずいらっしゃると聞く。一方で、前回の記事でご紹介したウェブページの中には移転したり内容が変わってしまったもの、さらには消えてしまったものもある。
そのような状況の変化の中、アカデミー事務局から改訂版を書いてみないかというお誘いを頂き、改めてタンゴとインターネットについてまとめてみることとなった。今回は、タンゴ関連のウェブページの紹介だけでなく、インターネットを通じてタンゴに関する情報収集を行う際のちょっとした手引きのようなものも書いてみようと思う。
ここではタンゴに関連したウェブページのいくつかをご紹介する。なお、日本語以外のページに関してはURLの後に(英)などの表記で使用言語を付記した。
まずご紹介するのは、特定のアーティストや話題に偏らず、タンゴ全般について取り上げられているページである。
現在日本で最も充実したタンゴのページといえば、当アカデミーでもおなじみの斎藤充正氏による「tangodelic!」、および石川浩司氏による「タンゴの部屋」であろう。「tangodelic!」の方は現在「タンゴ入門講座」が週刊で掲載されており、トップページにやはり週刊で掲載される「お勧めディスク」とともに毎週必ずチェックしたいページである。ピアソラの完全ディスコグラフィーも世界に誇れる内容。「タンゴの部屋」は月刊の体裁で「ニュース」「今月のCD」「名曲100選」などが紹介されており、こちらもファン必読のページと言える。
「タンゴが好き!」は、文字通りタンゴが好きな人たちが集まって制作しているページ。ダンスと音楽の両面からタンゴを深く愛しているのが伝わってくる。
アルゼンチンには個人レベルではなく企業によって運営されているタンゴのページがいくつか存在する。中でも強力なのは「Todo tango」(西、英)である。多くの有名アーティストの経歴やディスコグラフィー、楽譜などの資料、楽曲のサンプルなどが提供されており、エンターテインメントとしても資料としても極めて高いレベルにある。同様のコンセプトの「El Portal del Tango」(西、英)も重要。さらに「ABC Tango」 「Tango City」(いずれも西、英)といったページもある。いずれも内容、デザインとも相当に凝ったものとなっている。
カナダにはKeith Elshaw氏主宰の「ToTANGO」(英)というページがある。以前はToronto Tangoという名前でダンス情報が中心に扱われていたが、現在はニュース、バンドネオンの歴史、プグリエーセやディ・サルリやダリエンソなどのオルケスタに関する解説など、総合タンゴ情報ページとしてかなり充実してきている。
「Christian's Tango and Bandoneon Info」(英)はスイス、チューリッヒのChristian Mensing氏によるタンゴとバンドネオンの情報ページである。特にバンドネオンに関してはここで何でもわかると言っても過言ではない(彼自身バンドネオン奏者でもある)。
タンゴの愛好会、研究団体なども活動内容や催しの案内をウェブページに掲載するところが出てきた。中でも馬場明人氏主宰の「アルゼンチンタンゴ愛好会 CTA」、湯沢修一氏主宰のすいようかいの「SUIYOKAI」(英)などは比較的早い時期に開設されたページである。一方最近立ち上がったものとしては、吉岡達郎氏主宰の「タンゴ・アルヘンティーノ三重」がある。今後このようなページを各地の愛好家団体、研究団体が持ち、互いに情報交換をしたりするようになればタンゴの一層の活性化に大いに役立つのではないかと思う。
なお、当アカデミーのページも、上記の石川浩司氏の「タンゴの部屋」の中の1ページとして存在している。
この数年で、タンゴ・アーティストのウェブページは飛躍的に増えている。現役アーティストに関しては、いずれも自身のCDやライブなどについての情報が中心で、サンプルの音を聴けるところも多い。アルゼンチン人のものとしてはオラシオ・サルガン(西)、パブロ・シーグレル(西、英)、ダニエル・ビネリ(西、英)、ロドルフォ・メデーロス(西、英)、アドリアーナ・バレーラ(西、英は準備中)、「AMELITANGO」(アメリータ・バルタール)(西)、オルケスタ・エル・アランケ(西、英)、ラ・チカーナ(西、英)、ヌエボ・シグロ・タンゴ(西、英)などがある。
日本のアーティストでは、ピアノの熊田洋氏とコントラバスの東谷健司氏によるドゥオのエル・タンゴ・ビーボ、バンドネオン奏者京谷弘司氏、小松真知子とタンゴクリスタル、門奈紀生氏率いるアストロリコ、バンドネオン奏者田邉義博氏、同じく小川紀美代氏、歌手小原みなみ氏、学生オルケスタの名門オルケスタ・デ・タンゴ・ワセダなど、かなりの活況を呈してきた。
さらに、日亜両国以外のものとして、ドイツ、ベルリンのタンゴ・レアル・カルテット(英、独)、スウェーデンのザ・ニュー・タンゴ・オルケスタ(英、スウェーデン語)、カナダのノルテーニョ(英、仏)、デンマークのタンゴ・オーケスター(英)、フィンランドのインタイム・クインテット(英)、アメリカのフロール・デ・タンゴ(英)といったところは一見の価値がある。
一方、既に故人となったアーティストの中では、前回の記事の時点同様アストル・ピアソラに関するものが非常に多い。中でも代表的なものは米国在住のJohn Buckman/Cesar Luongo両氏が数年前から主宰している「Piazzolla.org」(英、西)であろう。
アニバル・トロイロ(西、英、日)は、彼のファンクラブ主宰のページで、なんと日本語版も存在する。
この他の過去の有名アーティストについては、単独のページこそ見つけられなかったものの、「タンゴについて総合的に論じているページ」で紹介したTodo Tangoなどのページにかなり詳しい情報がある。
ところで、インターネットは何もウェブページの閲覧だけに使用するものではない。ウェブページと並んで代表的な用途としては電子メールがあるが、これを一対一の通信手段としてではなく、多人数の情報交換のための手段として使用するシステムとして、メーリングリストというものが存在する。
タンゴ関連のメーリングリストで代表的なものは、前述のPiazzolla.orgで運営されているAstor Piazzolla Mailing List(英、西)であろう。各国の参加者がいろいろと意見を戦わせており、読み応えがある。Piazzolla.orgのページから参加手続きを取ることができる。
国内では、メーリングリストのシステムを提供するFreeMLにいくつかタンゴ関連のメーリングリストが登録されている(トップページからキーワードでメーリングリストを検索できる)。残念ながら現時点ではどこも一休み中といった趣きであるが、新規メンバーの加入によって活発化することも多々あるので、興味を惹かれるメーリングリストがあったら参加して積極的に投稿してみるのも良いであろう。
さて次に、タンゴに関する情報検索--例えばあるアーティストの経歴を調べたい、というような場合--のインターネットの活用法について、ちょっとしたヒントをまとめてみたい。
一般的にインターネット上で何かの情報を探すような場合には、サーチエンジンやディレクトリサービスなどとも呼ばれる情報検索サービスのページが使われる。この分野で最も有名なのはYahoo!で、日本のページを探すのであればYahoo! Japan、アルゼンチンのページならYahoo! Argentinaとなる。Yahoo!は基本的に収録する情報をかなり厳選しており、ここで見つかったページであれば内容はある程度の水準が保たれている可能性が高い。
一方、なるべく広くいろいろな情報を得たい場合に便利な検索サービスとして最近評価が高いのがGoogleである。ここでは、膨大なインターネット上のページ情報を独自の方法によってランク付けしており、検索キーワードとの関連が強くかつランクが上のページから順に表示されるようになっている。これにより、検索の目的に対してかなり的確な検索結果を得ることができる。日本語環境のままで世界中のページを一括して検索できるのも良い(日本語、英語、スペイン語など検索対象の言語を限定することも可能)。実は上記のYahoo!とも提携しており、Yahoo!が自前のデータベースで見つからなかったページに関してはこのエンジンの検索結果が自動的に表示される。表示の見やすさと検索の目的に応じて、どちらをアクセスするかうまく使い分けると良い。なお、詳しい検索の方法に関してはここでは触れないので、各々の「ヘルプ」を参照して頂きたい。
タンゴ関連の情報はどうしてもスペイン語のものが多くなってしまう。自在に読みこなせる人にとっては問題ないのであろうが、私を含めて「せめてもう少し何が書いてあるのかわかれば…」と思う方も少なくないのであろう。そんな場合に役立つのが、自動翻訳サービスを提供しているページである。代表的なものとしてはSystranがある。残念ながらスペイン語から日本語への翻訳はないのだが、スペイン語から英語であればある程度実用になる水準のものが提供されている。ページのURLを入力するだけで、元のページのレイアウトを保ったまま翻訳結果が表示されるし、文章を入力して翻訳させることも可能。固有名詞が翻訳されてしまったりする問題もあるので、完全にこれだけで全ての用が足りるわけではないが、原文も参照しながら読めば大意はつかめることが多い。
なお、Systranと提携している情報検索サービスとしてAlta Vistaがある。ここでは検索結果をいきなり翻訳して表示させることもできる。本来の検索サービスとしての実力もなかなか優れているので、一度試してみる価値はある。
ちなみに、英語から日本語への翻訳はAlta Vistaや国内の検索サービスでも提供されている。これを使ってスペイン語→英語→日本語と翻訳を重ねればもっと楽なのでは…と淡い期待を抱いてしまうが、残念ながら得られる結果はほとんど意味不明であることが多い。スペイン語から訳された英文が完璧なものではない上、英語から日本語への翻訳がまだ品質的に十分ではない、ということが原因であると思われる。
先にも述べたように、「タンゴについて総合的に論じているページ」の項でご紹介したページのいくつかは、アーティストや楽曲に関するかなり詳細なデータベースを持っている。有名なアーティストについては、検索サービスを利用するよりも先にこれらのページにアクセスした方が早いかもしれない。
いろいろ探しても見つからない情報については、識者に直接問い合わせる、という手もある。最近のウェブページの多くは掲示板と呼ばれる情報交換や交流のための場所を設けているので、これはと思うページの掲示板に質問を書き込んでみると、回答を得られるかもしれない。ページ作者以外の詳しい人が代わりに答えてくれることもある。
ただし注意が必要なのは、これまで紹介したウェブページのほとんどが非営利のもので、作者のいわば厚意によって運営されている、ということである。そのため、回答が必ず得られるとは限らないことは認識しておく必要がある。一方で、本来インターネットはギブ&テイクで成り立っている世界なので、自分が知っている情報を求めている人がいたら積極的に提供する、という姿勢も必要である。
以上、タンゴ・ファンにとって閲覧する価値のあるウェブページの紹介と、タンゴ関連の情報をインターネットで検索する際のヒントのようなものを書き連ねてみた。アカデミー会員諸兄にとって何か少しでもお役に立つ内容となっていれば幸いである。
なお、2年前にも書いたが、当アカデミー会員の方々の持つタンゴに関する情報、知識は、おそらく世界的にもかなり高い水準にあるはずである。我こそは、と思う方はぜひご自身でもウェブページを立ち上げ、多くのタンゴ・ファンにその情報と知識を提供して下されば、と思う。