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喜多直毅トリオ(2002.4.2)


よしむらのページ音楽的実演鑑賞の記録:喜多直毅トリオ(2002.4.2)


データ

曲目

第1部

第2部

アンコール

所感

タンゴ・ヴァイオリニストの喜多直毅は、一度ライブを聴いてみたいと思っていたミュージシャンの一人。今回、たまたまうまく時間の空いた時に大塚GRECOへの出演を知り、念願かなってのライブ体験となった。

予定よりやや遅れてスタートした第1部は、1曲目から現代の佳曲「夜のプレリュード」。この曲、邦題の語感は何やらムード歌謡っぽいが、ゴツゴツした重厚なテーマと流麗な旋律とが交錯するなかなか聴き応えのある曲なのだ。喜多トリオの演奏は、テーマでさらにタメを効かせて重厚さを増した力演。続くタンゴ、ワルツも良く、特に「オルランド・ゴニに捧ぐ」の渋みが印象的だった。

ヴァイオリンとピアノのデュオで演奏された「アブラサメ」はラテン・スタンダード、「たそがれのビギン」はちあきなおみが歌ってCMにも使われた曲(オリジナルは水原弘の歌らしい)で、しっとりとした雰囲気が良い。

一転してピアソラ作「キチョ」は田中の熱演が素晴らしく、たいへん聴き応えがあった。そして「鮫」。中間部に挿入されたヴァイオリンのインプロヴィゼーションはかなり自由な展開で、その感覚はジャズでもクラシックでもなく、あえて言えばロック的という感覚がぴったり来る。そういえばバックはコードが一定でリズムも定型的、つまりはワンコードのリフだったわけなのだ。というわけで、私にとってはこの日最も印象に残った演奏であった。

第2部はさまざまなアイディアを盛り込んだヴァイオリン・ソロによる「エル・チョクロ」でスタートし、「酔いどれたち」「心の底から」と続く。このパートでは、サウル・コセンティーノという作曲家の作品が2曲も取り上げられたことが非常に興味深い(いずれもピアニストのオスバルド・タランティーノとの合作)。コセンティーノの作品は、はっきり言って捉えどころのない曲想を持ったものが多いが、この日の演奏は「トーダ・ミ・トリステーサ」の旋律の美しさ、「コンビクシオネス」の後半の盛り上がりとも、なかなか引きつけられるものがあった。ちなみに、喜多はフェルナンド・スアレス・パスに師事していたときにこれらの曲の楽譜とCDを渡されて、弾いてみることを勧められたそうなのだが、彼自身の感想は「変な曲」だったらしい。コセンティーノについては後日「行きあたりばったり音楽談議」でも取り上げてみたい。

コセンティーノの2曲の間にはさまれた「チキリン・デ・バチン」は、飛び入りの竹内永和(ギター、喜多のグループ「タンゴフォビクス」のメンバーでもある)と喜多のデュオによる情感あふれる演奏。途中から田中のベースが加わり、ちょっとジャズワルツっぽいスイング感も加味された美しい展開となった。「アイ・ガット・リズム」は飯田のソロ。技巧面ももちろんだが、リズム感がとにかく素晴らしい。

なかなか濃いピアソラ2曲、ミシェル・ルグラン作の映画音楽と続き、アンコールの「ラ・クンパルシータ」でライブは締め括られた。

実は、喜多アレンジは相当凝っている、という噂を複数の人から聞いていたのだが、この日は全体に予想よりシンプルな構成であった。さらに、上述の「鮫」をはじめとしてさまざまなアイディアが盛り込まれたソロは聴き応え十分、ピアノやベースが所々でさらりと見せるジャズ的な感覚のフレーズも印象的で、非常に充実した一夜であった。

なお、喜多はソロ・アルバムのレコーディングが完了したばかりとのこと。この日の聴取体験で俄然リリースが待ち遠しくなった。

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