記憶によれば…
第1部、第2部は配布された曲目リストによるが、実際にはダンサリンが第1部に、 ネグラーチャが第2部に演奏されたように記憶している。
小松亮太がアルゼンチンからバンドネオンの巨匠ビクトル・ラバジェンを迎えて行なったこのコンサートは、 これまで聴いたタンゴのコンサートの中でも最高の部類に入るものであった。
古典から今につながるタンゴを、というコンセプトで組まれたプログラムは、 近年世間に広く認知されたピアソラの作品をあえて曲目から外し、 なおかつ昔からのタンゴファンにおなじみの有名曲も取り上げない、 というある種の冒険と言えるもの。 演奏スタイルはラバジェンが昔在籍していたオスバルド・プグリエーセ楽団のスタイルの延長上にあり、 重厚なリズムと繊細なアンサンブルの交錯、静と動の鮮かな対比が見事であった。 バンドネオンの細かい動きにゆったりとした弦の和声が立体感を与えるさま、 弦の最弱音のスタカートで刻まれるリズムが徐々にクレシェンドして周囲を巻き込み、 最後は全員一丸の強烈なリズム「ジュンバ」の炸裂に至る流れなど、 何度も鳥肌が立つほどの興奮と感動を覚えた。
演奏曲目の中では、 ラバジェン作「メリディオナル」はかなり複雑な展開ながら魅力的、 「カマンドゥラーヘ」も素晴らしく、 「エル・アブロヒート」「ラ・マレーバ」「ドン・ゴージョ」 といった古いタンゴも相当に凝ったアレンジで現代的に仕上がっていた (これらについては好き嫌いは別れるであろう)。 そして何と言っても「エバリスト・カリエーゴに捧ぐ」が感動的であった。
それにしても、 客席も完全に埋まっていたし、どの曲も満場割れんばかりの拍手を得ており、 冒頭に述べたプログラムの冒険は成功を収めたと言える。 これは、素晴らしい演奏内容に加えて、 小松氏らがこれまで地道な努力によってファンを広げてきたことの賜物であろう。 このような高い水準のタンゴを多くの人が耳にすることのできる状況が続けば、 今後のタンゴを巡る状況も一層面白いものとなると思う。
[2000.10.14記、10.15一部追記、修正]
ご意見、ご感想はメールまたは掲示板にてお願いします。
リンクはご自由にしていただいて結構です。
最終更新: Oct 15, 2000