ビクター・エンタテインメント, VICC-60143, 1999
ピアソラ・ピアノ・ファンタジー(A. ピアソラ、黒田亜樹編曲) | |
1. | アディオス・ノニーノ |
2. | 天使のミロンガ |
3. | アレグロ・タンガービレ |
ピアノのための4つの小品 作品3(A. ピアソラ) | |
4. | 風景 |
5. | 曲芸 |
6. | パストラル |
7. | トッカータ |
アルゼンチン舞曲集作品2(A. ヒナステラ) | |
8. | 年老いた牛飼いの踊り |
9. | 粋な娘の踊り |
10. | はぐれ者のガウチョの踊り |
11. | ラ・クンパルシータ(G. H. マトス・ロドリゲス) |
12. | エル・チョクロ(A. ビジョルド) |
13. | 淡き光に(E. ドナート) |
黒田亜樹:ピアノ
クラシック、現代音楽からタンゴまで、幅広く活躍しているピアニスト、黒田亜樹の2枚目のアルバムは、2000年代の幕開けを飾るにふさわしい素晴らしい内容です。
ブームになる前からアストル・ピアソラのファンだったという彼女は近年、ヴァイオリン奏者CHIKA、コントラバス奏者東谷健司等とのライブ企画「東京ピアソラランド」などを通じて、ピアソラだけではなくタンゴそのものに非常に真摯に取り組んでいます。 このような姿勢は、ピアニストとしての並外れた力量、編曲のセンスといった元来恵まれていた才能と相俟って、このアルバムを非常に聴き応えのあるタンゴ・アルバムに仕立て上げています。
まず注目すべきは、アルバムの最初と最後に配置されたタンゴへのアプローチでしょう。
最初に置かれたピアソラ作のタンゴ3曲は、彼女のピアソラへの敬愛の情が強く伺える演奏です。 中でも彼の代表作である1「アディオス・ノニーノ」は、ピアソラ五重奏団による演奏の各パートをなるべく省かずにピアノに置き換えたようなアレンジ。 ライブのMCや彼女のホームページでの発言によれば、ピアソラの演奏の完成度の高さに対する憧れと尊敬の念が、このような形での演奏に結びついたようです。 この曲のピアノソロによる演奏としては、最高傑作の一つと言えるでしょう。 本来2拍子であるミロンガという形式を題名に持つ2「天使のミロンガ」をあえて3拍子にアレンジしてしまうセンス、疾走感のたまらない3「アレグロ・タンガービレ」にも脱帽です。
一方、アルバムの最後では、タンゴのスタンダードナンバーとでも呼べるような作品に対し、原曲にとらわれない自由な発想での演奏を試みています。 低音の重さとしつこさが独特の11「ラ・クンパルシータ」に続き、フーガでどんどん展開して行く、というアイディアが面白い12「エル・チョクロ」は、そのフーガがとても一人で弾いているとは思えない絡み合い方、しかもちゃんとタンゴのビートが感じられるというすごいものになっています。 13「淡き光に」は一転して静寂の中に哀感を漂わせる演奏。 透き通るようなこの美しさは、しかしながら、本来の歌詞の意味と重ね合てみると、ある種退廃的なものにも感じられます。 いずれにせよ、作者の意図を超えた新たな魅力の発見と言えるでしょう。
これらのタンゴに挟まれてアルバムの中心に置かれているのは、ピアソラがクラシックとして書いたピアノソロ曲と、ピアソラの師であったヒナステラのピアノソロ曲です。 ピアソラの4〜7「ピアノのための4つの小品」は世界初録音。 同じピアソラの1〜3とはかなり趣が異なっており、興味深いものがあります。 一方、ヒナステラがアルゼンチンの民族音楽を素材として書いた8〜10「アルゼンチン舞曲集」は非常に魅力的な作品で、特に10のリズム感は素晴らしいの一言です。
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Last modified: Sat Jan 08 02:58:58 JST 2000