広瀬美紀子 / ブエノスアイレスの四季
2008-03-30に未完の記事をアップして「近いうちに補足・修正の予定」だったのが、半月もそのままになってしまった。申し訳ありません。以下補足・修正版です。[2008-04-17]
ムジカ企画の菅野様が送ってくださった、広瀬美紀子のピアノソロによるピアソラ作品集。
広瀬美紀子 / ブエノスアイレスの四季〜アディオス・ノニーノ〜ソロピアノで奏でるピアソラ集
(八王子音楽院 MHH-0024)
- ブエノスアイレスの冬
- ブエノスアイレスの春
- ブエノスアイレスの夏
- ブエノスアイレスの秋
- 3つの前奏曲:レイジアの戯れ(ピアノの為のタンゴ前奏曲)
- 3つの前奏曲:フローラの戯れ(ピアノの為のミロンガ前奏曲)
- 3つの前奏曲:サニーの戯れ(ピアノの為のワルツ前奏曲)
- アディオス・ノニーノ
- 忘却〜オブリビオン〜
- ソロピアノ:広瀬美紀子
- 編曲(1〜4, 8, 9):北條直彦
演奏は総じて勢いがあり、ピアソラの音楽の持つ熱さが伝わってくる。ピアノソロでピアソラのタンゴを演奏したものとしてはかなり高い水準にあるのではないかと思う。一方で、主にリズムやノリに関して、タンゴを聴く耳で聴いた場合にややもどかしさを感じたのも正直なところ。以下、アルバムタイトルにもなっている「ブエノスアイレスの四季」を中心に詳しく見て生きたい。
編曲を担当した北條直彦氏が書いたライナーによれば、「四季」の4曲はピアソラ五重奏団のライブ盤「レジーナ劇場のアストルピアソラ1970」に基づいて編曲されている。ただし「秋」のみ、「天使の死〜オデオン劇場1973」での終盤におけるピアノとギターのインプロヴィゼーションに基づく部分を追加してある(ライナーでは「他のヨーロッパライブでの録音を参考にしている」とあるが、実際にはブエノスアイレスでのライブ録音)。どの曲も確かに参考にした演奏の雰囲気をかなり良く表しているのではないかと思う。
「冬」は原曲の美しさを尊重しつつ、情緒に流されないところが好感が持てる。最後のバロック風の部分が見事。
「春」は、冒頭のフーガ、終盤の対位的変奏が見事。スピード感もあり、春の狂おしさが感じられる。が、全体に左手のベースラインがスタッカートでブツブツ切れてしまうため、全体に非常に軽い印象になってしまっているのが残念。タンゴ的にはもっとテヌート気味に弾いてほしい。また、終盤の盛り上がりで3発「ダン・ダン・ダーン」と来るところ(非常に非音楽的表現で申し訳ない、用語を知らないもので…)のリズムが、それまでの流れに全然乗っていないのもがっかり。感情の高まりをぶつけた感じなのだろうか?惜しい気がする。
「夏」は、力強い部分とメランコリックな部分の対比が見事で、すばらしい演奏。ただ、第一テーマの最後の長音(ターラッタッタータララッターーの最後の音)に付いた装飾音の音価が大きすぎる。前の小節に半拍食っているところがこのメロディーのポイントなのに、その半拍を装飾音だけで使ってしまい、次の小節の頭にアクセントがきてしまう。これも惜しい気がする。
「秋」は、冒頭4小節のリズムの解釈が納得いかない。ピアソラの意図からは完全に一拍ずれている気がするのだが…どうしてこういうリズムになるのか、理解に苦しむ。とはいえ、以後に関しては四季の中で最も良い。終盤の、オスバルド・タランティーノとオラシオ・マルビチーノのインプロヴィゼーションによる掛け合いを下敷きにした部分も、ソロピアノ版にうまくまとまっていて楽しめる。
「3つの前奏曲」はピアソラのピアノ曲としては最も優れた作品。私自身は黒田亜樹とドミニク・リュメの演奏しか聴いたことがなかった。両者はいずれも優れた演奏ながらかなり雰囲気が異なるが、広瀬の演奏もこの二人とはまた違った雰囲気を持っている。一言で言えば「端正」という言葉が適当であろうか。旋律の美しさが際立つ演奏である。
「アディオス・ノニーノ」は冒頭のカデンツァが見事。次の「オブリビオン」とともにピアノソロによるピアソラの一つのお手本となるだろう。
なお、演奏者は八王子音楽院の院長でもある方。3/30現在、同音楽院のトップページにCDの情報がある。
また、北條氏の編曲の楽譜は2008年4月に中央アート出版社より発売予定とのこと(2008年4月16日現在、サイトにはまだ発売の情報はない)。
編曲の下敷きになったCDはこちら。
レジーナ劇場のアストル・ピアソラ 1970(アストル・ピアソラ/アストル・ピアソラ五重奏団)(2008年2月に再リリースされたもの)
レジーナ劇場のアストル・ピアソラ 1970(アストル・ピアソラ/アストル・ピアソラ五重奏団)
天使の死~オデオン劇場1973(アストル・ピアソラ五重奏団)
ピアソラへのオマージュ(ギドン・クレーメル/フリードリヒ・リップス/ウラジミール・トンカー/バディム・サハロフ/エリザベト・ホイナツカ/ペル・アルネ・グロルビゲン/アロイス・ポッシュ/スバトスラフ・リップス/ミシェル・ポルタル/ポール・メイヤー)(「オブリビオン」はここでの演奏をベースにしたとのこと)
以下は「3つのプレリュード」について文中言及した演奏を収録したCD。
タンゴ・プレリュード~ピアソラ・ピアノ作品集(黒田亜樹/ピアソラ)
3 Preludes / Grand Tango / 6 Etudes(Astor Piazzolla/Champaign/Poulain)
2008-04-17 改訂
[Posted on 2008-03-30]
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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