Tango Querido 主催・歌劇『ブエノスアイレスのマリア』(2021/12/22 座・高円寺2)
2021年12月22日、東京・高円寺の座・高円寺2で Tango Querido 主催の歌劇『ブエノスアイレスのマリア』を観ました。
下のインスタへの投稿は直後の感想です。
数日を経た今、素晴らしい公演だったという気持ちはさらに強まっています。
まずはその音楽の精度と迫力のすごかったこと。総勢11名のアンサンブルの演奏はオリジナルをしっかりと踏襲し、作品の根底にあるタンゴのグルーヴを表現しつつ、同時に盛り込まれた様々な音楽の要素も余すところなく表現。個人的に特に印象に残ったのは「ドゥエンデのロマンス」「アレグロ・タンガービレ」でのピアノの宮沢由美さんの好演、「罪深いトッカータ」終盤でのギターの田中庸介さんの狂おしいまでの表現でした。
憂いを帯びた声と確かな歌唱力で見事にマリアを演じ切った小島りち子さん、一部に独自の解釈も織り混ぜつつやはり高い歌唱力で五つの役を演じた KaZZma さん、そして抑制の効いた表現の朗読でドゥエンデを演じた西村秀人さんはそれぞれ圧倒的な存在感を示しました。
一方、舞台上の演出は今回の公演独自のものでした。上述の各人の歌や台詞そのものはオリジナルを踏襲しつつ、舞台上にはシンプルなセットを設け、各出演者は動き回り、ステージ背後にはしばしば抽象的な映像効果が投影されました。ダンサー達は、タンゴが生まれた世界やタンゴそのものを具象化するとともに、マリアの周囲の世界に存在する様々な登場人物を演じました。これらの視覚的な面から物語にアプローチする表現は一つの挑戦だったと思いますが、例えばマリアの孤独と悲しみが今まで以上に痛切に胸に響いたというような感覚が私にはあり、非常に効果的であったと感じました。
今後への課題となりそうな点を少しだけ。ダンサーの面々が群読の形で台詞を語る際に、一部聞き取りにくい箇所がありました。また背後に投影された字幕がプロジェクターの輝度の問題で客席からは見にくくなってしまっていたのも残念でした。字幕についてはもう一点、歌詞や台詞の内容だけでなく各場 (曲) のタイトルもあった方が良かったようにも思いました。これらは技術的な制約などいろいろ難しい点も多いと思いますが、もし次の機会があったらぜひ考慮していただきたいと思います。
それにしても、この難しい状況の中でこの大作に挑むことを決意し、見事に全体をまとめ上げた柴田奈穂さんには改めて大きな拍手を送りたいと思います。そして関わったすべての方々に、素晴らしい公演を実現してくださったことを感謝したいと思います。本当にどうもありがとうございました。
なお当日ライブ配信された映像が、終演後1か月間アーカイブとして視聴可能です。当日観に行けなかった方も、もう一度あの感動を噛みしめたい方も、ぜひ視聴チケット販売ページで詳細を確認してみてください。私も12月22日と23日の両方を改めて観たいと思っています。
なお『ブエノスアイレスのマリア』という作品そのものについては、以前日本タンゴ・アカデミー機関誌に寄稿した「ブエノスアイレスのマリア~その成り立ちと魅力」という文があります。今自分で読み返しても結構参考になる内容で(笑)、現在は機関誌丸ごと PDF で読めますので、興味のある方はぜひ下記にアクセスしてみてください。
フッターに書かれたページ番号で73ページから、PDF ファイルのページ番号で74ページからが該当記事になります。
また、11月にコマラジの「Marcy & Magi の Tango en Tokio」で西村秀人さんと共に『ブエノスアイレスのマリア』を取り上げた際の記録 Viaje de Tango 第8回 歌劇『ブエノスアイレスのマリア』を100倍面白く観る方法 もご参照ください (ちょっと内容は薄いですが)。
公演データ
アストル・ピアソラ生誕100周年記念 歌劇『ブエノスアイレスのマリア』
日時:2021年12月22日 (水) 18:30~、12月23日 (木) 15:00~
場所:座・高円寺2
作:アストル・ピアソラ、オラシオ・フェレール
出演:
- 小島りち子 マリア (歌手)
- KaZZma カントール (歌手)
- 西村秀人 ドゥエンデ (朗読)
- 早川純 バンドネオン
- 柴田奈穂 バイオリン
- 会田桃子 バイオリン
- 田中景子 ビオラ
- 橋本歩 チェロ
- 赤木りえ フルート
- 田中庸介 ギター
- 宮沢由美 ピアノ
- 田辺和弘 コントラバス
- 相川瞳 ビブラフォン、シロフォン
- 海沼正利 パーカッション
- 鍬本知津子 ダンス・群読
- ゴンサロ・クエッショ ダンス・群読
- ダニエル・ウルキーシャ ダンス・群読
- レアンドロ・ハエダー ダンス・群読
- 坂田美帆子 ダンス・群読
総合プロデュース・音楽監督:柴田奈穂
演出:飯塚励生
翻訳:西村秀人
映像:EBITAN 菅原
音響:小俣佳久
照明:ライティングオフィス矢口
舞台監督:小田原築 (アートクリエイション)
配信:クラッキス・イレブン
宣伝美術:yamasin(g)
主催:Tango Querido
後援:アルゼンチン共和国大使館
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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