アストル・ピアソラ没後30周年トリビュート公演 (2022年10月1日 東京・イイノホール)
2022年9月30日~10月2日の3日間、5ステージにわたって行われた「アストル・ピアソラ没後30周年トリビュート公演」。その中日10月1日の昼公演に行って来ました。
アルゼンチンから招いた一流のミュージシャンとダンサー、日本で活躍するダンサーに加え、元宝塚スターの方々もゲストとして歌とダンスで参加する、という豪華な出演者による公演でした。客席はゲスト出演者のファンの方が多かったのでしょうか、9割がた女性という印象です。
曲目はすべてピアソラの作品で、曲によって演奏のみ、ダンスあり、歌ありとバラエティーに富んだ内容。ダンスは男性ダンサーは全てアルゼンチン人、女性ダンサーはアルゼンチン人と日本人でした。歌はアルゼンチン人のセシリア・カサードはもちろんスペイン語でしたが、他のゲストの方々は日本語で歌いました。
演奏はやはり素晴らしかったです。特にラミーロ・ガジョのバイオリンの艶と言ったら…。コントラバスがフィーチャーされる曲が「キチョ」「コントラバヘアンド」と2曲も入っていて、現代最重要コントラバス奏者のひとりであるフアン・パブロ・ナバーロの音がしっかり堪能できたのも嬉しかったです。ナバーロはそれらの曲以外でも、ベースラインにちょっとした遊びを入れたりして、これがまたかっこいいんだなあ。エミリアーノ・グレコのピアノは「アディオス・ノニーノ」のカデンツァで爆発!フェデリコ・ペレイロのバンドネオンも随所で好演。ピアソラのよく知られた作品以外に、「コントラティエンポ」「パラ・ルシルセ」「ロ・ケ・ベンドラ」等、彼がトラディショナルなタンゴの枠の中で革新を試みていた時期の曲が取り上げられていたことも価値がありました。最後の「アディオス・ノニーノ」「ブエノスアイレスの秋」は圧巻でした。
ダンスについては、素晴らしかったとは思うのですが、例によってあまりよくわからないというのが正直なところ。いい加減ステージダンスの鑑賞の基準を自分の中でひとつ持ちたいものです。
歌は…こう書いては何ですが、面白かったです。渡辺えりさんによる訳詞は、曲のエッセンスを損なうことなく曲のリズムに乗るように言葉が吟味されていて、素晴らしいと思います。ただ、日本語であることと歌い方の違いの相乗効果で、オリジナルからずいぶんと印象が違った曲もありました。例えば夢咲ねねさんの歌った「同じ苦しみ」は、ピアソラの曲と言われなければ完全に昭和の歌謡曲のようでした。詞の内容も曲想も言われてみれば確かにそういう要素を含んでいるので、意外性と納得感が同時に感じられる体験。まさに面白かったのです。他の方についても、一部の曲で音程やリズムについて若干の課題を残した面はありましたが、詞のストーリーを表現することについてはさすが女優だと感じました。
コロナ禍でいくつもの来日アーティストのコンサートがキャンセルになり、今回のメンバーについても2020年に来日が予定されていながら叶わなかったという経緯を経てのようやくの公演実現。世の中が少しずつ日常を取り戻していることを実感しつつ、極上のタンゴに浸ることができた幸せな時間でした。
アストル・ピアソラ没後30周年トリビュート公演
日時:2022年10月1日 13:00~
場所:東京・イイノホール
出演者:
- 演奏
- フェデリコ・ペレイロ (bn)
- ラミーロ・ガジョ (vn)
- フアン・パブロ・ナバーロ (cb)
- エミリアーノ・グレコ (pf)
- セシリア・カサード (vo)
- ダンス
- フェルナンド・ロドリゲス
- クリスティアン・ロペス
- エステファニア・ゴメス
- ダビッド・レギサモン
- エマヌエル・ドス・レイス
- 美翔かずき
- 村野みり
- ゲスト
- 真琴つばさ
- 水夏希
- 夢咲ねね
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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