Viaje de Tango番外編 吉村俊司のTango en Tokio! 1963年のタンゴ
2023年5月21日に放送された「Marcy & Magi の Tango en Tokio」は、Marcy & Magiのお二人がタンゴのお勉強のためにブエノスアイレスに旅立ったので、お留守番企画としてなんと私が55分間番組をお預かりしてしまいました。題して「吉村俊司のTango en Tokio」…ちょっと気恥ずかしいですが。
偶然にもこの日は私の60歳の誕生日の2日後でした。いわゆる還暦というヤツです。節目の歳の誕生日直後にこういう機会を頂いたのも何かの縁、というわけで、私が生まれた1963年に録音されたタンゴを特集することにしました。以下その際のメモです。
1963年ってどんな年
- 東京オリンピックの前年 日本は高度経済成長期の真っ只中
- テレビでは「鉄腕アトム」「キューピー3分クッキング」が放送開始、NHK大河ドラマ第一作 「花の生涯」もこの年
- キング牧師 “I have a dream” 演説
- ケネディ大統領暗殺
- 国内ヒット曲 梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」 坂本九 「見上げてごらん夜の星を」 ザ・ピーナッツ 「恋のバカンス」
- 海外ヒット曲 ザ・ビートルズ 「She loves you」 ボブ・ディラン 「風に吹かれて」 ビーチボーイズ 「サーフィンUSA」
1963年のタンゴ
タンゴ界の状況
- アルゼンチン国内は1955年に軍事クーデターでペロン政権が倒れて以来政情不安
- 海外からの音楽の流入
- タンゴを保護したペロン大統領が去ったことにより国際資本のレコードレーベルがジャンル別売り上げをシビアに見るように
- これらによりタンゴの人気は徐 に下降線
1963年の最大のヒット曲「ケ・ファルタ・ケ・メ・アセス」
Que falta que me haces 君なくて / ミゲル・カロ―とスターたちの楽団、アルベルト・ポデスタ
- そうはいってもまだまだタンゴも人気
- アルマンド・ポンティエル ミゲル・カロ―作曲 実質ポンティエル単独の作曲 フェデリコ・シルバ作詞
- ミゲル・カロ―の1940年代の スターたちの楽団 を再編した際に発表された
- ポンティエル ドミンゴ・フェデリコ (bn) エンリケ・フランチーニ ウーゴ・バラリス (vn) オルランド・トリポディ (pf) 等をフィーチャー
- 歌手はアルベルト・ポデスタとラウル・ベロンで この曲はポデスタが歌う
- タイトルの意味 どれだけ君を必要としていることか なんて寂しいだろう
この当時の大スター歌手フリオ・ソーサ
En esta tarde gris 灰色の昼下がり / フリオ・ソーサ、レオポルド・フェデリコ楽団
- 当時国民的人気を誇った歌手にフリオ・ソーサがいる
- ニックネームはEl varón del tango タンゴの伊達男
- 1926年ウルグアイ生まれ
- ウルグアイで活動の後1949年にフランチーニ ポンティエル楽団に入団 人気を博す
- その後フランシスコ・ロトゥンド楽団 アルマンド・ポンティエル楽団で歌う
- 1960年にソロ歌手としてデビュー 伴奏はレオポルド・フェデリコ
- テレビ ラジオ ライブ レコードと様 なメディアで活躍
- 今回かけるのは「灰色の昼下がり」マリアーノ・モレス作曲、ホセ・マリア・コントゥルシ作詞
- 1964年11月25日に自身の運転するスポーツカーが信号機に激突して死去 ガルデル同様衝撃的な最期
- 葬儀には20万人ものファンが詰めかけた
日本でのタンゴ人気
La cumparsita ラ・クンパルシータ / 坂本政一とオルケスタ・ティピカ・ポルテニア
- 戦後 日本には多くのタンゴ楽団が活躍 1956年には東京に50を超える楽団があった
- 演奏の場はキャバレー ナイトクラブ ダンスホール 音楽喫茶
- 1963年当時はまだ活気があった
- 早川真平とオルケスタ・ティピカ東京と人気を二分したのが坂本政一とオルケスタ・ティピカ・ポルテニア
巨匠たちの1963年
Charamusca チャラムスカ / オスバルド・プグリエーセ楽団
- タンゴを巡る状況の悪化により大編成楽団の維持はだんだん難しくなる
- とはいえミュージシャンのレベルは高く、巨匠たちは素晴らしい録音を残している
- 中でもオスバルド・プグリエーセ楽団は最高レベルの演奏力
- バンドネオンにオスバルド・ルジェロ、ビクトル・ラバジェン、フリアン・プラサ、アルトゥーロ・ぺノン、バイオリンにオスカル・エレーロ、エミリオ・バルカルセ等を擁する
- ピアノはもちろんプグリエーセだが、しばしばアルマンド・クーポが代役
- 曲は「チャラムスカ」、フランシスコ・カナロの古い作品だがプグリエーセの手にかかると…
Danzarín ダンサリン / アニバル・トロイロ楽団
- アニバル・トロイロ楽団も非常に充実
- 楽団を支えていたのはバンドネオンのエルネスト・バッファとピアノのオスバルド・ベリンジェリ
- 歌手にロベルト・ルフィーノとロベルト・ゴジェネチェを擁する
- プグリエーセ楽団に在籍していたフリアン・プラサがアレンジを提供、彼の楽曲も多数演奏されている
- プラサは黄金時代以降のタンゴ作曲家の中では最重要人物の一人
前衛派の1963年
Sideral 天体 / アストル・ピアソラとヌエボ・オクテート (新八重奏団)
- ピアソラは五重奏団の土台が固まり非常に充実
- さらに新八重奏団を結成(先週斎藤充正さんも「ノポセペ」をかけた)
- ピアソラ自身の作品以外に他者の作品も演奏している
- 中でも今日かける「シデラル」を作曲したエミリオ・バルカルセは先のフリアン・プラサと並んで非常に重要な作曲家
- バルカルセもプグリエーセ楽団のメンバー
- 個人的に大好きな曲、演奏
Bandomanía バンドマニア / エドゥアルド・ロビーラと現代タンゴ集団
- 今回かける曲は「バンドマニーア」
- バンドネオンにインスパイアされた曲で、対位法的を駆使したクラシック的な曲想が特徴的
- この時期のロビーラは比較的明るい曲も多い
音源
いつものようにSpotifyのプレイリストにまとめました。残念ながら坂本政一とオルケスタ・ティピカ・ポルテニアによるラ・クンパルシータはサブスクにはありませんでしたので、それ以外の6曲になります。
という訳で
いつものお知らせです。月額550円で「Marcy & Magi の Tango en Tokio」の過去アーカイブが聴き放題となる番組サポーターシステムがあります。1か月のみのお試しも可能ですので、ぜひご検討ください。詳しくは下記をご参照ください。
次回は通常のViaje de Tangoに戻って6月18日に放送される予定です。
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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