Celeste Septet 青木菜穂子七重奏 (2024/03/06 東京・代々木上原 Musicasa)
Celeste (セレステ) はスペイン語で水色、空色を表す言葉。特にアルゼンチンでは国旗に使われている色で、国の色と言っても良いかと思います。サッカー等の代表ユニフォームもセレステと白の縦縞ですね。青木菜穂子さんは、自身の様々な活動にこのセレステという言葉を冠しています。アルゼンチンの音楽を愛する心の現れでしょう。青木の青でもありますし。
Celeste Septetはそのセレステな活動の中でも最も大きな編成のもの。数年前から年1,2回程度の頻度で演奏しています。とわかったようなことを書いていますが、実は私、これまでなかなかタイミングが合わず、実際に聴きに行ったのは今回が初めてでした。
このセプテット=七重奏、実は楽器編成としては六重奏で、それにボーカルのSayacaさんが加わっての七重奏です。このコンセプトが最も端的に顕れていると感じたのが第一部4曲目の「ウノ」でした。楽器が鳴らしている音はオーソドックスな歌伴と比べると歌うのが難しそうだったものの、力量のある歌手が的確にメロディを歌うことによって初めて完全するアンサンブル、というように聞こえたのです。すなわち、ボーカルと楽器は歌とその伴奏という関係ではなく、楽器とボーカルの全員がひとつのアンサンブルを形作るのだ、という方向性です。
演奏された楽曲は幅広い時代のタンゴに加え、アルゼンチンのフォルクローレ、そして青木さんのオリジナル曲。他者の作品の編曲は、おそらくどれも誰かの編曲のアダプトではなく青木さんのオリジナルだったと思われます。過去の偉大な巨匠のスタイルの再現というのももちろん価値があることですが、他では聴いたことのない編曲で様々な楽曲を聴けることには別の喜びがあります。ましてその編曲のレベルが非常に高いものであるならなおさらのこと。例えば第二部5曲目の「シデラール」は、私がこれまで聴いたことがあるのはレオポルド・フェデリコ楽団の強烈にパワフルな演奏と、アストル・ピアソラ新八重奏団の目眩くドラマチックな展開の演奏のみでしたが、今回の青木バージョンはそのどちらとも違い、曲の根底にある力強さが浮遊感と美しさを伴って我々の前に立ち現れたのでした。
多くの曲で今回特徴的と感じたのが弦セクションの美しさでした。通常リズムセクション的な役割の大きいコントラバスが、しばしば弦セクションとしてのハーモニーの一員に加わっていたのもその要因のひとつだったと思います。
青木さんのオリジナル曲はどれも自然、風景、日常をモチーフにしており、フォルクローレ香りのする音楽でした。第一部5月曲目「月の山」はSayacaさんの歌詞を得ての組曲的な作品。そして、この日一番過激でかっこ良いと感じたのは、ピアソラ作品を差し置いてフォルクローレのエドゥアルド・ラゴスによるチャカレーラ「ラ・オンセーナ」でした。
以上、まとまりのない感想の羅列になってしまいましたが、素晴らしいコンサートを聴いたことの記録として残します。
Celeste Septet 青木菜穂子七重奏
日時:2024年3月6日 19:00〜
場所:東京・代々木上原 Musicasa
出演者:Celeste Septet
曲目
【第一部】
- Marrón y azul 栗色と青 (Astor Piazzolla)
- Bandoneón arrabalero 場末のバンドネオン (L: Pascal Contursi, M: Juan Bautista Deambrosio)
- Pájaros 小鳥たち (Naoko Aoki)
- Uno ウノ (L: Enrique Santos Discépolo, M: Mariano Mores) *
- La montaña de la luna 月の山 (L: Sayaca, M: Naoko Aoki) *
- Lectura
- Trio Ⅰ
- Trio Ⅱ
- La montaña de la luna
- El día que me quieras 想いの届く日 (L: Alfredo Le Pera, M: Carlos Gardel)
- A los amigos 友に捧ぐ (Armando Pontier)
【第二部】
- Camino al lago 湖に続く道 (Naoko Aoki) #
- Donare ドナレ (L: Carlos Ceretti, M: Oscar Pometti) *
- La oncena ラ・オンセーナ (Eduardo Lagos)
- Adiós nonino アディオス・ノニーノ (Astor Piazzolla)
- Sideral シデラール (Emilio Balcarce)
- Milonga de la anunciación 受胎告知のミロンガ (L: Horacio Ferrer, M: Astor Piazzolla) *
【アンコール】
- El choclo エル・チョクロ (L: Enrique Santos Discépolo, M: Ángel Villoldo) *
* ボーカル入り
# ピアノ、バンドネオン、コントラバスのトリオ
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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