ソニーでの37年を振り返る (後編)

光記録技術の開発に従事した前編はこちら。

後編は2004年に社内異動して以降の話になります。

ソフトウェアの世界への転向

メタデータ、自然言語処理、機械学習

2004年春に異動した先は、主にビデオ機器の応用開発を行っている部署でした。その前年に一部地域で地上波デジタル放送が始まり順次全国への展開が進められていた時期に相当します。その部署では放送に付随するEPG (電子番組表) 等のメタデータをどのように活用するかで様々な議論、試みがなされており、私はEPGの解析に自然言語処理技術を適用する検討を任されました。それまでの電気系ハードウェアエンジニアからソフトウェア開発の世界への転向です。

で…見事に失敗。技術検討そのものは意味はあったと思うのですが、書いたコードは使い物にならず、全部破棄して別の人に託すことになりました。

でもありがたいことに、当時の上司は「お前は新しいことをやれ」と別のテーマを与えてくれました。機械学習 (ディープラーニング以前の古典的なもの) と自然言語処理を組み合わせてビデオの解析を行うというものです。ずいぶんいろいろなことを試し、様々な知見もたまりました。が、面白い結果は得られても商品に使えるようなものにはならず、最終的には技術レポートを残して終了となりました。

もくじでジャンプ

改めて放送メタデータの活用の観点でいろいろなことをしましたが、やはり成果には結びつかず…2009年頃から進めていたプロジェクトは最終的に東日本大震災による諸状況の悪化で頓挫。こうして見ると光記録時代も含めて2000年代は、少なくとも対外的にはアウトプットゼロだったことになります。

しかし、その頓挫したプロジェクトの流れでエム・データという会社とのつながりが強まり、同社の番組メタデータ (放送番組の内容を人手でデータ化したもの) をブルーレイレコーダーに取り込んで、録画した番組の内容的な区切り (コーナーあるいはシーン) の頭にジャンプできるような目次をつける、という機能の開発を担当しました。2012年に「もくじでジャンプ」という名前でリリースされたこの機能は、ローラと山下真司のテレビCMも打たれました。

番組の見たいコーナー選びは、録画した番組を再生しているときや、録画番組一覧で番組を選択しているときに、リモコンの「もくじでジャンプ」(BDZ-EX3000は「コーナー目次」)ボタンを押すだけの簡単操作。画面に番組の目次が表示されるので、見たいコーナーを選んで簡単にジャンプできます。また、番組内で紹介された「お店」「商品」情報などもチェックできます。

パッと見られる | 簡単!使いやすい!ソニーのブルーレイ | ブルーレイディスクレコーダー

RECOPLAというタブレットアプリにも搭載され、ユーザーからも一定の評価を得ることができたこの機能でしたが、ビジネス上の判断から2017年にサービス提供終了となりました。

私自身は「もくじでジャンプ」が商品搭載された頃から放送メタデータに関する別の開発へとシフトしましたが、残念ながらここに書けるようなアウトプットはありません。

食事画像解析

その後業務は再び画像解析や機械学習の方へ。とあるプロジェクトを経て2015年頃、社内で進んでいた料理の画像認識の技術開発を引き継ぐことになりました。ちょうど機械学習がそれまでの古典的な手法からディープラーニング、ディープニューラルネットワークへと一気にシフトし始めた頃で、それを適用する開発を本格的に進めることになります。前任者の時代からご縁のあった株式会社ウィット (現在は株式会社asken)にその技術を提供し、ダイエットアプリ「あすけんダイエット」の食事記録に画像解析が導入されます。2016年のことでした。

幸いこれは現在もサービスとして継続中です。

AI映像解析

食事画像解析の後は、改めてビデオの解析技術に取り組みます。主に放送局を想定顧客としたこの技術は、テレビ東京、日本経済新聞社と共同で2018年の国際放送機器展に出展したりしました。

残念ながらその後プロジェクトは終了しましたが、技術資産は一部別の用途で活用されています。

その後、さらに異なる分野での開発業務に従事し、2024年3月に退社となりました。

特許

特許というと何か特別なことのように聞こえるかもしれませんが、企業で研究開発部門にいると特許を取ることは業務の一環です。

J-GLOBALというサイトで自分の名前が発明者に載っている日本国内の特許を調べたところ、登録案件 (特許として認められたもの) は41件、公開公報には載ったものの特許として認められなかったものも含めると97件ありました。この数には自分が筆頭発明者でないものも含まれますし、今では切れてしまったものもたくさんありますが、まあこんなものでしょうか。

J-GLOBALでの吉村俊司の特許検索結果

終わりに

以上、私のソニーにおける37年を公開された情報で振り返ってみました。今書かなければこの先書くことは難しいだろう、ということでまとめてみましたが、まとめることで思い出したこともいくつかあったりして、やってよかったと思っています。今後「ソニーにいたそうですけど何やってたんですか?」と誰かに聞かれたら「ここを見てください」と言えば良いですし。

誰かの参考になるような話ではないと思いますが、記録として残しておきます。

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