会田桃子デビュー25周年記念&バースデイ・ライブ 南米室内楽団 (2024/05/31 東京・永福町SONORIUM)
バイオリン奏者、ビオラ奏者、歌手、作編曲家、楽団リーダーとして活躍する会田桃子さんの、デビュー25周年と誕生日を記念したライブに行ってきました。
デビュー25周年?えー、もうそんなになるの!?というのが率直な感想です。1999年の銀座・王子ホールでの小松亮太&ザ・タンギスツの公演に参加したのを起点としているとのことで、私自身はその公演にこそ行ってはいないものの間違いなくその年には彼女の演奏に触れていましたので、私自身の会田桃子ファン歴25周年ということでもあります。
この日のライブはタイトルにもあるように《南米室内楽団》によるもの。会田さんの主宰で年に何度かライブを行っているグループで、弦楽四重奏+ピアノ+ギターの編成で南米の音楽や南米テイストのオリジナル作品を演奏しています。デビュー以来タンゴ・バイオリニストとして認知されている彼女ですが、実際にはフォルクローレをはじめとして幅広く活動しており、その幅広さにもフィットする柔軟な編成と言えるでしょう。
このグループのキーパーソンであり会田さんがその才能に惚れ込む三枝伸太郎さんの「桜の終わり」からスタート。出だしからその響きの美しさに息を呑みます。ギター以外全て生音で、ホールの音の良さと楽曲の美しさを余す所なく伝える演奏でした。以後、グループのもう一人のキーパーソン藤本一馬さんの作品を中心に、会田さんの作品、ピアソラ、日本のタンゴ、日本の歌曲など。
藤本一馬さんの楽曲はどれも美しくかつスリリングで、拍だけ数えればかなり変態的な変拍子も身を委ねれば何とも心地よく流れます。会田さんと藤本さんはデュオ等での共演も長く続けており、その共演が自身の表現を大きく変えたと会田さんが語っているほどですので (下のインタビューも参照)、この日のライブの中心的位置を占めたのも必然でしょう。
会田さんの自作はミロンガとワイニョというアルゼンチン音楽のリズムをモチーフにしたもの。前者は歌の曲で、その作詞 (スペイン語) も自身で行っています。録音等はまだないそうで、この日聴けたのはラッキーでした。後者はこの日のラストに演奏されたもので、最近の当人のフォルクローレ志向を象徴する曲かと思います。
日本の歌曲は第2部の最初に「Wの悲劇」と「蘇州夜曲」。三枝さんの魔術的に美しい編曲は恐らく歌うのがかなり難しい部類かと思いますが (そもそも「Wの悲劇」のサビの部分は原曲自体が難しい)、いずれも会田さんの歌声はしっとりと美しく、胸に迫るものがありました。
タンゴはゲストのバンドネオン奏者、北村聡さんを加えてピアソラを2曲。いずれもピアソラのキンテート (五重奏団) のオリジナルを尊重しつつこの日の編成にアダプトした編曲でした。タンゴ・バイオリニスト会田桃子の面目躍如たる演奏。そしてもう一曲、会田さんの恩師でもあるという平吉毅州さんが作曲した日本のタンゴ「ラ・シルエータ (影法師)」。ピアソラブームよりもはるか前の1960年代に作曲され、1970年代にはカルロス・ガルシーアとタンゴ・オールスターズ、オスバルド・レケーナ楽団が、1999年には小松亮太スーパーノネットが録音していますが、公式な録音はおそらくその3つのみという幻の名曲です (曲の背景等については西村英人さんが書かれた 幻の名曲「ラ・シルエタ」とオルケスタ・ティピカ・アルヘンティーナ幻の名曲「ラ・シルエタ」とオルケスタ・ティピカ・アルヘンティーナ もご参照ください)。スケールの大きいドラマチックなこの曲をこの編成で聴けたことは幸せでした。余談ですが小松亮太スーパーノネットの録音年1999年はまさに会田さんのデビュー年で、会田さんもビオラで参加しています。ライブハウスでの公演は私も観に行っており、もしかするとその時が会田さんの演奏に初めて触れた機会だったかもしれません。そう考えると、いろいろと感慨深い曲でもありました。
下の写真はラストの「ワイニョ・オリエンタル」でのもの (撮影許可あり)。ズンチャカズンチャカというワイニョのリズムをベースにしつつ一部に変拍子も交え、メンバー各人の即興ソロのリレーもある楽しい演奏でした。
とにかく素晴らしい楽曲、素晴らしい演奏、素晴らしいホールの響きを堪能したライブでした。彼女の音楽を25年聴き続けられた幸せに心から感謝!少なくとも50周年は見届けるつもりですので、今後もますますのご活躍を!
会田桃子デビュー25周年記念&バースデイ・ライブ 南米室内楽団
日時:2024年5月31日(金) 19:30〜
場所:東京・永福町SONORIUM
出演者:南米室内楽団
曲目:
【第一部】
- 桜の終わり〜組曲『希望の季節』より (三枝伸太郎)
- Snow mountain (藤本一馬)
- Milonga del mar 海のミロンガ (詞曲:会田桃子)*
- Prayer (藤本一馬)
- Concierto para quinteto キンテートのためのコンチェルト (アストル・ピアソラ)#
- La silueta 影法師 (平吉毅州)#
【第二部】
- Woman “Wの悲劇”より (詞:松本隆、曲:呉田軽穂)*
- 蘇州夜曲 (詞:西條八十、曲:服部良一)*
- Flow (藤本一馬)
- Shadows and echoes (藤本一馬)
- Romance del diablo 悪魔のロマンス (アストル・ピアソラ)#
- Huayño oriental ワイニョ・オリエンタル (会田桃子)#
* 会田桃子ボーカル
# バンドネオン北村聡 参加
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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