小松亮太&オルケスタ・ティピカ with 彩吹真央~11人で演奏するアルゼンチンタンゴ~(2024/12/13 J:COMホール八王子)
12月13日は小松亮太&オルケスタ・ティピカ with 彩吹真央のコンサートを聴きに八王子まで行ってきました。
オルケスタ・ティピカというのは1920年代以降のアルゼンチン・タンゴにおいて標準的な楽器編成の楽団のこと。当初はバンドネオンx2、バイオリンx2、ピアノ、コントラバスの6人編成でしたが、1930年代以降はバンドネオンとバイオリンが各4人前後になり、しばしばビオラやチェロも加わりました。今回の小松さんのオルケスタ・ティピカもバンドネオンx4、バイオリンx3、ビオラ、チェロ、ピアノ、コントラバスの11人編成。大きな規模の楽団はなかなか維持が大変で、アルゼンチン本国でも1940~50年代の黄金時代をピークにその数は激減、現在はこの編成で常時演奏している楽団はほんの少ししかありません。それでも小松さんにとってはこの編成が「タンゴってこうですよって言えるホーム」であり (下記インタビュー参照)、毎年必ず公演を行っている表現形態です。
上記インタビューにもありますが、今年は日本に初めてアルゼンチンのオルケスタ・ティピカ《フアン・カナロとオルケスタ・ティピカ》(以下フアン・カナロ楽団) がやってきてから70周年にあたります。今回のコンサートではそのフアン・カナロ楽団来日時の編曲 (当時のライブ録音ー本ページの一番下にリンクありーから小松さん自身が書き起こした譜面) を採用した楽曲が重要な要素となっていました (第一部1、4、第二部4→下の曲目参照)。さらに、それらの編曲の多くを担っていたのがアストル・ピアソラであることとも関連してか、ピアソラのあまり知られていない編曲 (第一部3、9、第二部6) も取り上げられ、加えて小松さんが敬愛するビクトル・ラバジェンの作品、そしてもちろん小松さん自身の作編曲でプログラムが構成されていました。
オルケスタの響きは、本人が相当気合を入れていただけあって素晴らしいものでした。印象に残ったのは、今回韓国から呼び寄せて参加してもらったというバイオリンのパク・ヨンウンさん。「ジェラシー」(第一部3) では近藤久美子さんと交互にソロを取り、美しい音色を聴かせてくれました。第二部最初のバンドネオン・ソロメドレーでは、演奏の素晴らしさもさることながら、小松さんとその門下生の4人のバンドネオン奏者がそれぞれテレビドラマなどの音楽に参加していることが紹介され、バンドネオンの音色が彼らの手で世の中にじわじわと浸透していることが再認識できました。ゲストの彩吹真央さんは第二部から登場。日本語で歌うことを基本としつつ部分的にスペイン語の歌詞も交えた歌唱で、譜面通りのタイミングからのずらし方、特にところどころ食い気味に入るあたりにタンゴらしさを表現する工夫が感じられました。
一方ステージの構成としては、必ずしもタンゴに詳しいわけではない大半のお客さんをいかに惹きつけるか、に苦心している様子が伺えました。MCの端々であえてしつこく自身の本「タンゴの真実」に言及しつつ、世の中に出回っているタンゴやバンドネオンに対する先入観を覆すような話をしたり、アニソン (アニメソング) のタンゴアレンジやタンゴのリズムにこだわらない自作を織り交ぜたり。第一部5のトークコーナーではタンゴの頻出リズムパターンである4ビート、ハバネラ、シンコパ (シンコペーション)、3-3-2を、コントラバスの田中伸司さんに実演してもらいながら解説して、タンゴのどこに注目して聴けば面白いかを伝えたり。正直に言えば個人的にはアニソンなどはあまり響くものがなく、もっとタンゴそのものにこだわってくれた方が嬉しいような気もしてしまいます。一方で小松さん自身としては、過去にその方向での様々な試みはさんざんやってきており、その上で到達したのが今やっていることなのでしょう。ひとまず他の方の反応も含めて見守りたいと思います。
小松亮太&オルケスタ・ティピカ with 彩吹真央~11人で演奏するアルゼンチンタンゴ~
日時:2024年12月13日 (金)
場所:東京・J:COMホール八王子
出演:
- 小松亮太&オルケスタ・ティピカ
- ゲスト:彩吹真央 (vo) #
曲目:
【第一部】
- El amanecer 夜明け (M: Roberto Firpo)
- Lagrimas 涙 (M: Eduardo Arolas, arr: 小松亮太)
- Jealousy ジェラシー (M: Jacob Gade)
- Inspiración インスピラシオン (M: Peregrino Paulos, arr: Astor Piazzolla)
- タンゴのリズムの物語 (トークコーナー)
- 薔薇は美しく散る (M: 馬飼野康二、L: 山上路夫、arr: 小松亮太)
- Buenosaireando (M: Victor Lavallén)
- 山と太陽 (M: 小松亮太)
- La cumparsita ラ・クンパルシータ (M: Geraldo Henán Matos Rodrígues)
【第二部】
- バンドネオン・ソロメドレー
- 小松亮太:さんぽ (M: 久石譲、L: 中川李枝子)
- 鈴木嵩朗:Flores negras 黒い花 (M: Francisco De Caro)
- 北村聡:Por una cabeza 首の差で (M: Carlos Gardel, L: Alfredo Le Pera)
- 早川純:Libertango リベルタンゴ (M: Astor Piazzolla)
- 全員:グスコーブドリの伝記 (M: 小松亮太)
- El día que me quieras 想いの届く日 (M: Carlos Gardel, L: Alfredo Le Pera) #
- Uno ウノ (M: Mariano Mores, L: Enrique Santos Discépolo) #
- Siempre a punto シエンプレ・ア・プント (M: Hugo Baralis, arr: Astor Piazzolla)
- Meridional メリディオナル (M: Victor Lavallen)
- Adión Nonino アディオス・ノニーノ (M: Astor Piazzolla) – バンドネオン4、ピアノ、コントラバスでの演奏
- Balada para un loco ロコへのバラード (M: Astor Piazzolla, L: Horacio Ferrer) #
【アンコール】
- 世界遺産 (M: 小松亮太)
- Ich kusse Ihre Hand, Madame… 奥様お手をどうぞ (M: Ralph Erwinm, L: Fritz Rotter, arr: 小松勝) # – バンドネオン (小松)、バイオリン (近藤)、ピアノ、コントラバスでの演奏
なお、コンサート中何度も触れていた本「タンゴの真実」については、下記のインタビューもご参照ください。
フアン・カナロ楽団の来日公演のライブ録音も今やサブスクで聴ける時代となりました。Spotifyのリンクを貼っておきます。
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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