キース・エマーソンへの手紙 / 黒田亜樹 (2004年7月7日 スイートベイジル STB139)

相変わらず時間がなくておもしろそうなライブをずいぶん見逃してしまっている今日このごろだけど、このライブは行けて良かった!
内容は、[2004-05-02-1]で紹介した CD 『タルカス&展覧会の絵』のコンセプトに基いたもので、ピアノと神田佳子さんのパーカッションとの共演。圧巻はやはり「タルカス」だった。CD では、上記紹介でも書いた通り、プログレッシヴ・ロックの古典を純クラシック的なアプローチで演奏していて、それゆえに静かな狂気と緊迫感が感じられるものだったけど、今回のライブではもっと直接的に激しくかつ爽快な演奏だったと言える。
CD で本来の楽曲の合間に挿入されていたピサーティによるオリジナル・パートは導入的に「ゾーン」として1パートだけ (確か「ランニング・ピアノ・トレイン」だったかな?) 演奏され、あとはほぼ「タルカス」本来の構成。CD において一旦除去されたロック的表現が改めて注入され、再度パワーアップしたような感覚だった。編曲は概ねピサーティによるものに準拠していたにも関らず、これだけ印象が違うのもホント面白い。やはり神田さんの超絶パーカッションの存在と、それに触発されたクロアキさんのプレイが自然とそうさせたのだと思う。
他の演奏曲目としては、1曲目がいきなりエマーソンの「ピアノ協奏曲第1番 第3楽章」。実は私はこの時初めて聴きました。はい。
2曲目はピアノ・ソロで「展覧会の絵」。CD 同様にオリジナルに準拠したものだったけど、これがまた CD とはかなり違う印象。CD ではかなり間を取った演奏だったのに対し、ここではむしろ早めのテンポでグイグイ押す感じ。
休憩をはさんで第2部はピアソラの「オブリビオン」と「リベルタンゴ」でスタート。「リベルタンゴ」もやはりかなりの快速版。で、上記の「ゾーン〜タルカス」へとなだれ込み。
その後は、エマーソンのソロアルバムからの「ア・ブレイド・オブ・グラス」をピアノ・ソロで、さらにアンコールとして「展覧会の絵」の「バーバ・ヤガーの小屋」「キエフの大門」を、ピアノはオリジナル・スコアのまま即興のパーカッションを加える、という、これまた超絶刺激的な演奏でしめくくったのであった。
さて、この日の演奏で改めて感じたのは、演奏者の得るフィードバックが演奏内容を大きく変える、ということ。共演者、客席の反応、会場の音響などが、演奏を変えていく。客席や共演者はそれにまた反応し、相互作用が生まれる…あれ、なんだか書いてみると当たり前っぽいな。で、おそらくは CD 版の「タルカス」も、録音の直前に行われたというパルマでの演奏会のフィードバックが残っているだろうし、一方でこの日の「展覧会の絵」や「リベルタンゴ」は会場に漂うロックな気分が影響した部分もあったのかもしれない。
そういった意味からも、この日のライブは幸福な体験だった。逆に、都合がつかず行けなかったクロアキさんのこれまでのリサイタルでの「展覧会の絵」がどうだったのか、改めて興味がわいた。

  • キース・エマーソンへの手紙
  • 2004年7月7日 20時〜 於東京・六本木 スイートベイジル STB139
  • ピアノ: 黒田亜樹
  • パーカッション: 神田佳子

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