スタイリッシュ・タンゴ感想その2

前回の記事 [2007-01-17-1] にて、「実は個人的にはちょっとだけ不満もあった。」と書いた件について。
一番気になったのは、編曲である。演奏された曲のうち「エル・チョクロ」や「孤独」などはエリカ自身の個性が反映された編曲、演奏だったように思うのだが、一方で、オスバルド・プグリエーセ楽団やセステート・マジョールなどの編曲をほぼそのまま流用した演奏が多かったことが、何となく引っかかってしまった。
もちろん、優れた編曲をそのまま踏襲すること自体が悪いことではない。特に、以下のような場合には意義あることと言えるだろう。

  • 若手演奏家やアルゼンチン国外の演奏家がタンゴ黄金期の演奏を追体験する手段として
  • 偉大な先人に敬意を込めて (ピアソラ五重奏団によるアルフレド・ゴビの「私の贖罪」など)
  • 曲とアレンジが一体化していて他のアレンジが考えにくいような場合 (プグリエーセ楽団のためにビクトル・ラバジェンがアレンジした「エバリスト・カリエゴに捧ぐ」、ピアソラが五重奏団結成以降に書いた大半の曲、など)

今回の場合は主に2番目にあたるのだろうか。しかしながら、若手とはいえそれなりに個性を確立したアーティストとしては、アレンジを流用する曲の比率はもう少し低くても良かった気がする。もしくは、やるからには完璧にコピーしてやるか、逆に譜面に現れないところで自分たちなりの個性を発揮するか、いずれかに徹することが必要ではないか。そうでないと、聴く側としてはどうしてもオリジナルの演奏と重ねて聴いてしまい、ちょっとした部分に物足りなさを感じてしまうのだ。今回は残念ながらどちらの方向にも行き切れていない感じがした。
というわけなのだが、先日も書いた通り、演奏、ダンスとも質の高いパフォーマンスが観られる素晴らしいショーであることに異論はない。変なこだわりを持たなければ間違いなく楽しめる内容であるので、これから公演が行われる地方の方はぜひ足を運ばれることをお勧めする。

公演に行けない方、予習、復習をしたい方には CD も出ているので、こちらもぜひ。

  • スタイリッシュ・タンゴ
  • エリカ・ディ・サルボ楽団
  • MUSAS (ラティーナ), MUSAS-6002


スタイリッシュ・タンゴ(エリカ・ディ・サルボ楽団)

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