パブロ・シーグレルがやって来た!
もう10日も経ってしまったのか…パブロ・シーグレルの来日公演は私の生涯でも間違いなく五指に入る素晴らしいコンサートだった。
参考:来日前に書いた パブロ・シーグレルがやってくる!
目次
ブエノスアイレス・コネクション
今回の最初のシーグレル体験は、6/20に東京・馬喰町のフクモリで行われたシークレットライブ、ブエノスアイレス・コネクションだった。
一応「鬼怒無月、西嶋徹、北村聡がアルゼンチンからの巨匠ピアニストをゲストに迎えて行うライブ」というアナウンスがひっそりとなされていたのだが、そりゃシーグレル以外のピアニストが来るはずない、というわけで、店内は完全に満席。
にこやかに登場したシーグレルは、1曲1曲詳しい解説を入れながらいかにも楽しげに演奏。しかしその演奏は飛ばしまくりの走りまくりで、相当に熱い。日本人3人もシーグレルのあおりに応えるようにインプロヴィゼーションを決める。ちょっと「天使の序章」だけはこのテンポじゃ味わいが消えるでしょう、と思ったりはしたものの、総じて非常に刺激を受けた素晴らしい内容だった。アンコールではチェリストの村中俊之も加わり、導入部がやたらかっこよい「リベルタンゴ」を聴かせてくれた。
曲数はアンコールを含めても9曲と少なめで、ちょっと物足りなさも感じた。これぐらいの小さいスペースでもっとじっくり聴けたら良かったのに…とは思ったものの、まあホールコンサートを前にした予行演習なら仕方ないか、と納得。
- ブエノスアイレス・コネクション
- 2011年6月20日 19:30〜 東京・馬喰町フクモリ
- メンバー
- 鬼怒無月(g)、西嶋徹(cb)、北村聡(bn)
- ゲスト:パブロ・シーグレル(pf)、村中俊之(vc)+
- 曲目
- ミケランジェロ70
- エル・チョクロの周辺
- 天使の序章
- ラ・ラジュエラ
- アストルの場所
- フーガと神秘
- バホ・セロ
- ミロンガよ、もう一度
- (アンコール)リベルタンゴ+
パブロ・シーグレル・ミーツ・トーキョー・ジャズタンゴ・アンサンブル
そして、ついに待ち望んだ6/22の浜離宮・朝日ホールでのコンサート、パブロ・シーグレル・ミーツ・トーキョー・ジャズタンゴ・アンサンブル!
開演してすぐに、やっぱり2日前のライブは予行演習だったんだな、と悟る。もちろん手を抜いていた感じなど全くなかったのだが、まだ少し手探りの部分もあったのかもしれない。
この日はもう全員がフルスロットル。音響も楽器も完璧で(フクモリではピアノはアップライトだったし、その状態もちょっと…)、メンバーそれぞれが音楽にすべてを捧げているのがわかる。タンゴでは通常行われないアドリブ・ソロ回しが非常に刺激的。その開放感とスリルが、書き込まれたアンサンブル部分の密度も高めてくれているようだ。
フクモリでの演奏同様、基本的にはどんどん走るシーグレルだが、この日は緩急も見事で、「ラ・フンディシオン」や「天使の序章」は十分に重く深い演奏となっていた。前者では鬼怒のギターもすさまじく、私にとっては第1部のベストだった。
第2部の1曲目、ゲスト・バイオリニストの会田桃子とシーグレルのデュオによる「別れのミロンガ」は渾身の演奏。ピアソラへの哀悼の意を込めて作られたこの曲の余韻が、以降の演奏を更なる高みへと引き上げた気がする。「チン・チン」でのシーグレルのソロでは、次から次へと溢れ出す音の流れに、このままいつまでも終わらなければいいのに、などと思ったり。
客席との一体感も素晴らしく、アンコール1曲目「アディオス・ノニーノ」のあと、客電がついても拍手が鳴り止まずもう一曲「天使の死」。曲が終わると観客全員が即座に躊躇無く立ち上がってのスタンディング・オベーション。こんなこと、クラシックやジャズやタンゴでは、少なくとも私は経験したことがない。
終演後のロビーで会った知人とは、互いに何か語りたいものの即座には語るべき言葉を持たず、でも何も語らなくてもただうなずくだけで感動を共有できるという稀有な体験。
- パブロ・シーグレル・ミーツ・トーキョー・ジャズタンゴ・アンサンブル Pablo Ziegler Meets Tokyo Jazz Tango Ensemble
- 2011年6月22日 18:30〜 東京・浜離宮朝日ホール
- メンバー
- パブロ・シーグレル(pf)、鬼怒無月(g)、西嶋徹(cb)、北村聡(bn)
- ゲスト:会田桃子(vn)+
- 曲目
- 第1部
- ミケランジェロ70
- エル・チョクロの周辺
- ラ・フンディシオン(溶解)
- 天使の序章
- ラ・ラジュエラ(石蹴り遊び)
- アストルの場所
- フーガと神秘
- 第2部
- 別れのミロンガ+
- ブエノスアイレス・レポート
- バホ・セロ(零下)
- ミロンガよ、もう一度
- ボエドの娘
- チン・チン(乾杯)
- リベルタンゴ+
- アンコール
- アディオス・ノニーノ+
- 天使の死
余談
シーグレルはメンバー選定のために1月、2月と来日して、今回のコンサートに向けて準備を進めてきたのだそうだ。震災によってもコンサートを行う意思はいささかも揺らがず、こうして日本の素晴らしいミュージシャンとの奇跡的なコラボレーションを実現してくれた。その熱意と、言葉に尽くせないほどの素晴らしい音楽に、感謝したい。
今回のプロジェクトは、シーグレルと日本のミュージシャンの双方にとって、今後に向けた第一歩であると確信している。今後どのような形で発展していくのか、今から楽しみで仕方がない。
[Posted on 2011-07-03]
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
商品へのリンクには以下のアフィリエイトが設定されている場合があります。
Amazon.co.jpアソシエイト
楽天アフィリエイト
“パブロ・シーグレルがやって来た!” に対して1件のコメントがあります。