民音タンゴ・シリーズ〈53〉キンテート・デル・アンヘル (2024/02/13 東京 文京シビックホール)
毎年恒例の民音タンゴ・シリーズ、今年はバイオリン奏者ウンベルト・リドルフィ率いる《キンテート・デル・アンヘル》でした。例年は東京公演の夜の部に行くのですが、今年は既に夜にミシェル・ンデゲオチェロのライブの予定を入れていたため (そのレポートはこちら) 初めて昼の部に行きました。
グループ名の「アンヘル」は、リーダーのウンベルトの父であるアンヘル・リドルフィから取ったもの。著名なコントラバス奏者で、アストル・ピアソラの最後の六重奏団への参加、ネストル・マルコーニとの共演などで知られる人です。その父に敬意を表してウンベルトが四重奏団《クアルテート・デル・アンヘル》を結成したのが2019年。今回はウンベルトの妹であるビオラ奏者のエリザベスを加えたキンテートでの来日公演となりました。
タンゴの五重奏というと、ピアソラやキンテート・レアル以降はバイオリン、バンドネオン、ピアノ、ギター、コントラバスという編成が標準的ですが、今回はギターの代わりに上述の通りビオラが入っています。このビオラの存在が思いの外効果的でした。弦2本で形成するハーモニーは美しく、バイオリン2本よりも中音域にしっかりとした厚みを感じます。
演奏された曲目は比較的現代寄り。有名曲に加えて「センチメンタル・イ・カンジェンゲ」「ノチェーロ・ソイ」等のそれほど広くは知られていない曲が取り上げられていたり、レオポルド・フェデリコやアストル・ピアソラによる優れた編曲をベースにしていたりして、大変聴き応えがありました。特に個人的に驚いたのは第二部1曲目の「ロ・ケ・ベンドラ」の編曲。ピアソラが1963年に結成したものの短命に終わった《ヌエボ・オクテート》のバージョンに基づく編曲だったのです。ジャズやロック (60年代ですからまだ初期のロックンロールですね) の香りも漂うような、当時のタンゴとしてはかなり過激な試みだった音をトラディショナルな楽器編成で見事に現代に蘇らせたことは、価値ある試みだったと思います。
一方で、ウンベルトのバイオリンを大々的にフィーチャーした「エスクアロ」「ジェラシー」は、個人的にはもうひとつの感がありました。もちろんとても上手いのですが (「ジェラシー」は2000年頃の《フォーエヴァー・タンゴ》で当のリドルフィが弾いたのを聴いて感心した記憶もあります)、大歌手が自身の大ヒット曲を何度も歌ううちに歌いまわしがどんどん極端になって鼻につくようになった感じ、とでも言いましょうか。失礼ながらそんな感じを受けてしまったのが正直なところです。
歌手のバネッサ・キロスは見事でした。声量、表現力とも申し分なし。忘れられていた曲「トゥス・パラブラス・イ・ラ・ノーチェ」を発掘してきたことも素晴らしいと思います。
ダンスについては、例年「見事だと思うけど私にはよくわからない」と書いてきましたが、今年もまあそんな感じ。いや、ちょっとアクロバティックな要素が邪魔に感じるようになってしまったところはあります。そもそも民音タンゴって「コンサート」というよりは「ショー」なのでしょうね。ショーとして考えれば見事なダンスだったのだろうと思いますが…。或いは、ステージダンスとは異なるミロンガでのダンスを目にする機会が多かったことも影響しているのかもしれません。最後にちょっと余計なことを書いてしまいました。
民音タンゴ・シリーズ〈53〉キンテート・デル・アンヘル
日時:2024年2月13日 14:00〜
場所:東京 文京シビックホール
出演者:
- キンテート・デル・アンヘル Quinteto del Ángel
- Humberto Ridolfi (vn)
- Adrián Enríquez (pf)
- Nicolás Enrich (bn)
- Manuel Gómez (cb)
- Elizabeth Ridolfi (va)
- Vanesa Quiroz (vo)
- ダンス
- Carla & Gaspar
- Sabrina & Eber
- Luciana & Federico
曲目:
【第一部】
- Tango del ángel 天使のタンゴ
- Taconeando タコネアンド (靴音高く)
- Nostálgico ノスタルヒコ
- Che bandoneón チェ・バンドネオン
- Tus palabras y la noche トゥス・パラブラス・イ・ラ・ノーチェ (君の言葉と夜)
- Chiqué チケ
- La trampeara ラ・トランペーラ
- Orgullo criollo オルグージョ・クリオージョ (クリオージョの誇り)
- Negracha ネグラーチャ
- Sentimental y canyengue センチメンタル・イ・カンジェンゲ
- Azabache アサバーチェ (黒玉)
【第二部】
- Lo que vendrá ロ・ケ・ベンドラ (来たるべきもの)
- Selección de milongas ミロンガ・メドレー (ラ・プニャラーダ〜エル・ポルテニート〜ミロンガ・デ・ミス・アモーレス〜牛車に揺られて〜エル・エスキナーソ)
- Los mareados ロス・マレアードス (酔いどれたち)
- Íntimas インティマス (心に秘めて)
- Vuelvo al sur ブエルボ・アル・スール (南に帰って)
- Nochero soy ノチェーロ・ソイ (夜遊び人)
- Escualo エスクアロ (鮫)
- Zum スム
- Celos ジェラシー
- Un Ángel en Japón 父アンヘルが愛した日本
- Siempre se vuelve a Buenos Aires シエンプレ・セ・ブエルベ・ア・ブエノスアイレス (いつもブエノスアイレスに帰る)
- Contrabajeando コントラバヘアンド
- La cachila ラ・カチーラ
- Triunfal トリウンファル (勝利)
【アンコール】
- María de Buenos Aires (Yo soy María) ブエノスアイレスのマリア (私はマリア)
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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