東京現音計画#22~コンポーザーズセレクション8:木下正道 (2024/12/05 東京・杉並公会堂小ホール)

現代音楽の演奏家集団《東京現音計画》のコンサートに行ってきました。普段はほとんど縁のない世界ですが、意外にロックや即興音楽との親和性、類似性を感じており、たまに聴くとなかなか面白いのです。

dsc_67157314186527460053703

メンバーの一人であるピアニストの黒田亜樹さんは、なんだかんだで25年以上の付き合いの友人です。この2日後の別のコンサートに行く旨の連絡をしたところ (そちらについても近いうちに書きます) 今回のコンサートもおすすめされたのでした。せっかくなので予習でも、と事前に公開されていたプログラムからジョン・ゾーンや大友良英の作品をSpotifyで聴いてみたら…これが予想以上の難敵。改めて確認するとコンサートのテーマは『密やかさの探求~無音よりさらに深い静けさへ向けて~』ということで、オレには難しい世界かも、寝るんじゃないか?という漠然とした不安を抱えながら会場に向かったのでした。

しかしながら実際始まってみれば、実に濃密な体験でした。最も琴線に触れたのは、まさに予習でたじろいだジョン・ゾーン「ダーク・リバー」と大友良英「Cathode 2024」。前者はバスドラムのみで演奏される作品で、静寂の中で寡黙にして重く深い音が響きます。予習の際には他の作業をしながら聴いていたのですが、他に気を取られることなく正面から向かい合って聴いたら全然印象が違いました。一つ所に留まりながら、その場所自体がゆっくりと下降していくような感覚、浮遊したり降下したりするわけではなく、地に足は着いていて安定しているのに沈んでいく感覚…

後者はタイトルに2024と付いていることからも明らかなように、予習した同タイトルの曲とは別の作品でした。Cathode (カソード) という言葉はおそらく一般には馴染みがないと思うのですが、主に真空管や半導体ダイオードなどの電極の名称で、私のような電気・電子工学系の人間にとっては慣れ親しんだ言葉です。その言葉の意味に私の意識は完全に誘導されており、音を聴きながら連想したのは電子回路の調整をしている状況でした。業務として音の出る回路に携わったことはないものの、オシロスコープで回路のいろいろな個所を触って波形を確認している感覚が蘇ってきたのです。きれいな波形が観測されることもあれば、調整次第で動作が不安定になって予期せぬ発振を起こしたり、歪んでいたりノイズが乗っていたり。そういう体験をしたことがある人は非常に限定されるでしょうからこれは完全に個人的な感想でしかないのですが。

もう一曲、杉本拓「ノー・タイトル・フォーエヴァー」も惹かれるものがありました。配布されたプログラムの作曲者自身の解説によれば

引き金となる短音を発することが出来る3人と、その最初の音を受けて持続音を出すことが出来る3人。次に単音が発せられた時には、持続音を出していたものは音を止め (持続音が長くなる場合は自発的に発音を止めることもできる)、そうでないものは持続音の発音を開始することが出来る。――これが決められた時間の間、ひたすら続く。

杉本拓《ノー・タイトル・フォーエヴァー》(2024委嘱初演) – 作曲家による作品解説

とのこと。トリガー担当は作曲者自身の客演によるギターと、ピアノ、パーカッションで、持続音担当はサクソフォン、チューバ、エレクトロニクス。静寂の中でいつトリガーが発せられるのか、呼応する持続音はどんな音になるのか、という緊張感は、何かのゲームのようでもあり、武道の間合いの取り合いのようでもありました。希薄な気体の分子運動のシミュレーションなども連想してしまったり。音の数や音程の面での情報量は極端に少ない分、発音それ自体が自分の中にさまざまな感覚を喚起する、という体験は新鮮でした。

これら以外の楽曲も含め、全体として物理的に静かな、つまりは控えめな音量と少ない音数で表現された楽曲で構成されたプログラムでした。例外はプログラム監修者である木下正道による2曲。いずれも物理的な意味での「静けさ」からは遠い楽曲でした。しかしながら、特にラストに演奏された「静謐この上なき晴朗さ Ⅱ」で感じられたのは、例えば都会の雑踏の中でふと我に返った時に感じる静けさに似たものだったように思われます。

東京現音計画#22~コンポーザーズセレクション8:木下正道 密やかさの探求~無音よりさらに深い静けさへ向けて~

日時:2024年12月5日 (木) 19:00~

場所 東京・杉並公会堂小ホール

出演者:

曲目:

  1. 木下正道《ただひとつの水、ただひとつの炎、ただひとつの砂漠Ⅳ》(2018)
    • 大石将紀 (sax)、神田佳子 (per)
  2. ルイジ・ノーノ《ドナウのための後前奏曲》チューバとライブ・エレクトロニクスのための (1987)
    • 橋本晋哉 (tuba)、有馬純寿 (electronics)
  3. ジョン・ゾーン《ダーク・リバー》4つのバスドラム (36”-40″)、二人の演奏家のための (1995)
    • 神田佳子 (per)、有馬純寿 (electronics)
  4. 大友良英《Cathode 2024》東京現音計画版初演 (1999/2024)
    • 大石将紀 (sax)、橋本晋哉 (tuba)、黒田亜樹 (pf)、神田佳子 (per)、有馬純寿 (electronics)

      —-休憩—-
  5. 杉本拓《ノー・タイトル・フォーエヴァー》(2024 委嘱初演)
    • 大石将紀 (sax)、橋本晋哉 (tuba)、黒田亜樹 (pf)、杉本拓 (g)、神田佳子 (per)、有馬純寿 (electronics)
  6. 佐原洸《蘇芳香》バリトンサクソフォンとチューバ、エレクトロニクスのための *チューバ版初演 (2021/2024)
    • 大石将紀 (sax)、橋本晋哉 (tuba)、有馬純寿 (electronics)
  7. 木下正道《晴朗この上なき晴朗さ Ⅱ》(2024委嘱初演)
    • 大石将紀 (sax)、橋本晋哉 (tuba)、黒田亜樹 (pf)、神田佳子 (per)、有馬純寿 (electronics)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です