サイト内検索 [検索の詳細]

タンゴのスタンダードを楽しむ〜行きあたりばったり音楽談議(3)


よしむらのページ : 雑文いろいろ : タンゴのスタンダードを楽しむ〜行きあたりばったり音楽談議(3)


はじめに

今回は、前回の予告通り、タンゴにおいてスタンダードと言えるような曲を一通り聴いてみるためのCDを2点ほどご紹介します。選定に際しては、あまりメロディーやテンポを崩していないもの、それでいて聴いて楽しめるもの、という観点を重視しました。なかなか難しい選択ですが、私なりの案ということでご了承ください。

タンゴのスタンダード満載のCD紹介

名人芸の楽しめるキンテート・レアル

1960年代に結成されたキンテート・レアル(QUINTETO REAL)という五重奏団があります。メンバーはオラシオ・サルガン(pf)、ウバルド・デリオ(g)、エンリケ・フランチーニ(vn)、ペドロ・ラウレンス(bn)、キチョ・ディアス(cb)で、いずれもタンゴ史上に燦然と輝く名手達です。彼等は当初、短期間のうちに活動を休止してしまったのですが(その時点ではベースはラファエル・フェロ)、日本側からの企画によってアルバムを録音して活動を再開し、来日公演も行われました。その後もメンバーは入れ替わりつつ、グラン・キンテート・レアル、ヌエボ・キンテート・レアルとして断続的に活動を続けており、最近またアルバムを発表したりしています。

このグループの中心人物でアレンジを担当しているオラシオ・サルガンは、ピアソラもライバルとして意識していた巨匠で、非常に革新的な音楽性を持っています。でも実際のところ、曲のメロディーを非常に大切にする人で、どんな曲でも無茶な崩し方をすることはないのです。リズムにクセがあって、「ウン・パ」と呼ばれる独特のシンコペーションを多用していますし、随所に斬新な和声的感覚も感じられますが、メロディーをじっくり味わうのには最適の演奏ではないか、と私は思います。

さてさて、彼等のCDですが、今回の主旨に則ってスタンダードばかりを集めたもの、という観点では、"QUINTETO REAL / NUESTROS 30 MEJORES TANGOS" (COLUMBIA / SONY, 2-493754, アルゼンチン盤2枚組)というものがあります。これは実は、1964年に彼等が初来日した時に日本で録音したLP「日本のキンテート・レアル1」「同2」の全曲と、同年のアルゼンチン録音のアルバム(現在国内盤で「夜明け」ソニー、 SRCR 2391として発売中)からの抜粋が収められているものなのです。日本での録音ということもあって、まさにスタンダード揃いの選曲で、名人芸に身をまかせてゆったりとくつろいで聴ける名盤です。

なお、このグループのCDとしては、上述の「夜明け」、最新のヌエボ・キンテート・レアル(齢80を越えたサルガン、相棒のデリオに、マルコーニ-bn、ペレシーニ-vn、ジウンタ-cbという編成)の「ヌエボ・キンテート・レアル」(WEA, WPCS 10288, 日本盤)「タンゴス」(WEA, WPCR 19053, 日本盤)がいずれも素晴らしい内容で、入手も容易です。

メデーロス=ブリスエラによるタンゴの原点

サルガンに続いてはロドルフォ・メデーロスの登場です。バンドネオン奏者のメデーロスは、1970年代にはタンゴの枠を飛び出してロックへと接近。プログレッシヴ・ロックやフュージョン的なアプローチの作品を発表した後、1990年代にはタンゴに回帰し、自身のグループで独創的な活動を行ってきました。

さて、そんな経歴の人物が、ギターのニコラス"コラーチョ"ブリスエラとのデュオによる最新作「タンゴス」(WEA, WPCR 19057, 日本盤)では古典タンゴばかりを演奏しています。二人とも名手ゆえ、たいへん豊かな響きを持っていますが、スタイルはあくまで素朴で、タンゴの原点とも言えるような演奏が展開されています。曲目は、上述のキンテート・レアルの2枚組の収録曲に比べればやや知名度が落ちるものの、タンゴの醍醐味を味わうにはうってつけの名曲揃い。しみじみとした味わいの音は胸に迫るものがあります(もっとも「エル・チョクロ」だけは結構過激なアレンジがなされていますが)。

というわけで

タンゴにおいて、オリジナルとカヴァーというような概念はあまり成立しません。一般には同じ曲をさまざまな演奏者がさまざまなアレンジで取り上げることが多く、どれがオリジナルかということを決められないのです。

当然今回の2点についても、各曲はさまざまなアレンジの中の一つに過ぎないわけですが、私としては特にメロディーを大事に歌っているものを選んだつもりです。これらを聴くことが必須なわけではありませんし、あらゆる面においての決定番というわけでもありませんが、楽しんで聴ける名曲集であることは保証します。

さて次回は、連休の家族サービスの関係でちょっと間が空くかもしれません。再来週の5/12か13ごろにはアップできると思います。テーマは…室内楽寄りのタンゴ・グループ、もしくは航空パイロットとして勤務する傍ら音楽を学んだ異色の音楽家、のいずれかになると思います。特にどちらかを先にやってほしいというようなご要望がありましたらメール掲示板でリクエストして下さいね。

(2002年5月1日作成)

よしむらのページ : 雑文いろいろ : タンゴのスタンダードを楽しむ〜行きあたりばったり音楽談議(3) || ページの先頭