Chicaと黒田亜樹が仕掛け人のライブ・シリーズ「東京ピアソラランド」。 14日のお台場TLGでの公演では湿度の高さから楽器の鳴りが悪く、 万全とは言えないコンディションであったが、 それでも相当に高いレベルの充実した演奏が繰り広げられた。 28日の六本木stb139では上記のような問題もなく、 メンバーもリラックスしていてノリも十分。 ピアソラランド史上最高と言える素晴らしい演奏であった。
今回は豪華な弦楽アンサンブルをフィーチャーした拡大バージョンで、 通常は弦楽四重奏のO.K.Stringsが、今回は各パートを倍にした8人編成。 それにコントラバスの東谷健司を加えた9人による演奏でライブはスタートした。 とにかくこの弦楽アンサンブルの充実ぶりが素晴らしい。 弦だけでこんなにグルーヴする演奏はちょっとないのではないか? 特に「ラ・プニャラーダ」「コラレーラ」と続くミロンガ、 そしてChica作のアルゼンチン風ワルツでその感を強くした。 「想いの届く日」の美しさとChicaのソロの冴えも格別。
続く黒田亜樹のピアノ・ソロのコーナーでは、 黒田と藤原真理のコンサートで演奏されて今一歩の感のあった「天使の死」 が再演された。 超絶技巧が駆使されるこの曲、 14日は残念ながら前回同様十分な完成度には至らなかった (冒頭に述べたコンディションの悪さも影響していた模様)。 28日もやや気負い過ぎの感はあったが、こちらは多少のミスにも勢いが感じられた。
O.K.Strings、東谷が再び登場し、黒田と共に演奏した 「プレリュード・ヌエベ」「ディベルティメント・ヌエベ」「フーガ・ヌエベ」 は圧倒的に素晴らしい出来栄え。
第2部はまずChicaと黒田のデュオで、 クレーメルの演奏で世に知られるようになった「レのミロンガ」でスタート。 続く「酔いどれたち」は、 ピアソラランドの非ピアソラ曲としては初期のころから取り上げられていた曲だが、 従来のピアソラのアレンジをベースにした演奏から新アレンジ (アントニオ・アグリとエンリケ・ムンネの録音に基く) に変わってのお披露目。 より自由な雰囲気のこの演奏もなかなか良い。
次に東谷を加えてのトリオの演奏。 この編成はピアソラランドとしては一番自由度、安定感がある。 やはり初期のころからのレパートリーのミロンガ「マノ・ブラバ」「ノクトゥルナ」 は完全に自分たちの手になじんだ感があり、余裕と遊び心が感じられた。 オリジナルアレンジの「ラ・クンパルシータ」の重厚さも良く、 「ブエノスアイレスの冬」の深い表現には圧倒された。
最後はO.K.Stringsが入り、ゲストに小松亮太を迎えてのコーナー。 まず黒田を除く全員でロビーラの「コントラプンテアンド (対位法で)」。 前回のピアソラランドでもバンドネオン・パートを黒田がピアノで弾いて演奏されたが、 今回の編成がほぼオリジナルに忠実ということになる。 題名通りひたすら対位法で展開されて行く曲で、 おそらく演奏の難易度はかなり高いと思われるのだが、 タンゴ的グルーヴ感とともに完璧に表現された素晴らしい演奏であった。 続いて黒田も加わり、全員でファンタジックな「降る星の如く」、 そして「バンドネオン協奏曲」の抜粋と続く。 いずれもただただ素晴しいの一言。
アンコールは本編の熱気をそのまま維持しての「革命家」。 さらに28日のみ「バンドネオン協奏曲」の第3楽章が演奏された。 28日の演奏ではちょっとしたハプニングもあったが、 とても満たされたひとときを力強く締め括った。
それにしても、 これだけの大編成でタンゴらしさを表現するための努力は並大抵のものではなかったと思う。 全体を統率する仕掛け人二人、そしてそれに応えたメンバーたちに大いに敬意を表する。 また、自作やオリジナル・アレンジの水準の高さも見逃せない。 全体の中ではまだ一部だが、 ピアソラランドならではのオリジナリティとして意義あるものだと思う。
[2001年7月22日(日) 記]
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最終更新:2001.07.22