よしむらのページ:音楽的実演鑑賞の記録:小松亮太3days 2日目(2001.12.16)
バンドネオン奏者の小松亮 太がやりたい放題の企画満載で草月ホールを3日間占拠(?)した「小松亮太3days」。2日目の第1部は「ア・ラ・パリージャ」と題し、五重奏でほぼ即興により古典タンゴを演奏するコーナーであった。
即興、といっても、ジャズなどにおけるアドリブ・ソロとはかなり感覚が違う。ジャズの場合は一般に、与えられたアドリブ・パートで自由なフレーズを演奏する、という形を取る。一方、ここでの即興は、どちらかというと「ヘッド・アレンジ」という言葉に近い。事前にはキー、サイズなど最低限の打ち合わせのみがなされており、メロディー、対旋律はそれぞれ誰がどのように弾くか、リズムの崩し方はどうするか、などを、その場その場で決めて行く、というものである。
この日の演奏は、どの曲も比較的ゆったりとしたテンポで進行。フレーズ毎に「誰が出るか」というような緊張感と、自由な感覚、各自の感性が出たフレージングが非常に面白かった。特に若手の吉田が一見遠慮がちに見えてそれなりにきっちりと主張しており、好演。
もっとも、コンサートホールにおいてこのような試みが行われるのはほとんど最初のことであり、仮に同様の企画がこの先も行われるとすれば、これからさらに磨かれて行くべき部分も多々あるであろう。各曲ごとにMCで「何も決まっていません」とか「大丈夫でしょうか」とか言うのも、ある意味面白さを倍加させるための要素となっていたわけであるが、理想を言えばそれなしでも面白さ、素晴らしさが伝わるレベルであってほしい(ジャズやロックに親しんだ人にとっては、あまり「譜面なし」を強調されるのもかえって興覚めなのだ)。
ちなみに、パリージャとはアルゼンチン風焼肉の焼き網のこと。譜面の載っていない譜面台を焼き網に見立て、譜面なしの即興による演奏をこう呼ぶようになったそうである。
第2部は「ロベルト・杉浦リサイタル」と題し、強烈な個性を持った歌手ロベルト・杉浦の歌を中心に、合間にピアソラのコンフント・ヌエベ(九重奏団)のレパートリーの器楽曲を配したステージ。エンターテインメントとしては3日間で最も楽しめたパートであったと思う。
ロベルトのステージといえば、奇抜なファッションと早口のギャグ満載の語りがすぐに連想される。今回も、客席から登場するという意表をついた(しかし非常に彼らしい)演出でスタートした。ファッションこそ昔風の非常にカラーの高いシャツ以外は比較的オーソドックスだったが、語り口は相変わらず健在。
実を言うと、彼を前回聴いた時にはギャグと歌の世界の落差がかなり大きいように感じられ、
シリアスな内容の歌と定着したキャラクターとの折り合いのつけ方が案外難しいかもしれない(もちろん落差を楽しむという聴き方もありであろうが)
という感想を持った。実際、極めて悲しいはずの歌を聴きながら笑い転げているファンらしい女性も見かけたものである。しかしながら今回のステージでは、相変わらず明るく笑いを取りながらもふと寂しさ、悲しさを漂わせる局面があり、聴衆をうまく歌の世界へと引き込んでいた。特に小松のバンドネオン・ソロの伴奏による「最後の酔い」は迫真の名唱。
伴奏楽団では、クアトロシエントスでも活躍するピアノの佐藤、ベースの西嶋らが好演、重厚なリズムで歌を引き立たせていた。器楽曲ではタンゴ初体験というヴァイオリンの礒、神谷が健闘。
よしむらのページ:音楽的実演鑑賞の記録:小松亮太3days 2日目(2001.12.16) || ページの先頭