このコーナー、たいへん永らくのご無沙汰となってしまいまして、誠に申し訳ありません。何度か復活を予告していながらズルズルと年末までずれ込んでしまいましたが、また少しづつでも書いて行くつもりですので、どうかよろしくお願いします。
さて、2002年も残すところあとわずか。今年も振り返ってみれば色々なCDがリリースされました。そこで、この1年で聴いたCDのうち特におすすめのものをいくつかご紹介したいと思います。
タンゴのCDについては、日本タンゴ・アカデミーの12月のタンゴ・セミナー「今年発売されたCDから」で何点かご紹介しました。まずはその中から。
この変わったグループ名はタンゴ「アマブレメンテ」(E・リベーロ、I・ディエス作)の歌詞の一節から取ったものだそうです。別の男とベッドにいた愛人を、嫉妬からではなく自分の尊厳を守るためにナイフで34回も刺してしまうという、マチスモの権化のような曲です。「刑務所のタンゴ」というアルバム・タイトル、床に置かれたナイフのモノクロ写真のジャケットともども、タンゴ黎明期における場末の酒場のヤクザな世界を意識したコンセプトと言えるでしょう。
演奏は、重く鈍くストイックにリズムを刻むギター・アンサンブル(ギター3 +ギタロン)と歌の組み合わせで、古風なスタイルながら危険な薫りの漂うハードボイルドなタンゴといった趣きです。歌手のアレハンドロ・グジョットの声が若干甘い感じなのがトータルの雰囲気からすると惜しいところですが、かなり聴き応えのある作品となっています。歌なしのインストも5曲入っていて、非常に充実した演奏です。
同名のタンゴ・ショーの音楽をCD化したものです。詳しくは動き始める新世代〜行きあたりばったり音楽談議 (2)をご参照ください。
なお、最近(2002年の年末)になって同グループのCDがもう一枚出回っています。
縮小メンバーによる四重奏での演奏です。
パブロ・アグリ(アントニオの息子、vn)、クリスティアン・サラテ(pf)、ダニエル・ファラスカ(cb)という若手実力派奏者によるトリオです。バンドネオンはいませんが、各人のソロが存分に楽しめる充実したCDです。
なお、アグリとサラテを含む四重奏は2002年夏に来日し、品川プリンスで行われたタンゴ・ダンスのショーに出演していました(私は行けませんでしたが)。
ネストル・バスは日本ではほとんど知られていなかったウルグアイのバンドネオン奏者です。ギター、ベースとのトリオのCDですが、これが聴いてびっくり!ずっしりとした手応えの、極めて高水準の演奏なのです。特に「ラ・カチーラ」などのスタンダードの演奏は厚みがあって圧倒的迫力ですし、バスや他のメンバーのオリジナル曲はちょっとフュージョンっぽいアプローチもあったりして、ウルグアイ発のオリジナリティーが感じられます。ギターのフリオ・コベリがバスと対等の存在感を示しています。
オスバルド・レケーナは古典からモダンまで、あらゆる種類の仕事をこなすピアニスト、アレンジャー、指揮者です。今回のアルバムはバンドネオン・ソリストにレオポルド・フェデリコを迎えた大編成オルケスタによるもの。「秋のカプリーチョ」「夜のプレリュード」「今日のミロンゲーロ」などレケーナ=フェデリコの共作曲ばかりが収められています。豊かな響きが堪能できます。
タンゴを中心に幅広い活動を展開している若手ヴァイオリニスト、喜多直毅さんの率いる五重奏のアルバムです。ヴァイオリン、チェロ、コントラバス、ギター、ピアノ、という編成で、バンドネオンを含まない編成ですが、しっかりとタンゴに根ざしたリズム感と、クラシック、ジャズ、ロックなどの要素も取り入れた自由で新しい感覚の表現が魅力的です。特に「ダンサリン」「秋のテーマ」など1950年代以降の作品の演奏がこのスタイルにマッチしていると私は感じています。
なお、アルバム・タイトルの「タンゴフォビア」とは「タンゴ恐怖症」の意味とのこと。となるとグループ名「タンゴフォビクス」は「タンゴ恐怖症患者」でしょうか。…うーむ。
関連情報、CD入手に関しては喜多さんのホームページを参照して下さい。
福岡、北九州を中心に活動するピアノ、ヴァイオリン、アコーディオンによるタンゴ・トリオです。詳しくはファンダンゴ!〜行きあたりばったり音楽談議(1)をご参照ください。
以上が、日本タンゴ・アカデミーのタンゴ・セミナーでもご紹介したCDです。「タンゴ編(1)」とした以上は(2)もあるのか、といえば、あります。さらにタンゴ以外についてもご紹介するつもりです。年明けにずれ込む可能性も大きいのですが、ご期待ください。
(2002年12月28日作成)