よしむらのページ:音楽的実演鑑賞の記録:セイスシエントス (2001.10.22)
ある方からメールで、第2部で1曲演奏したバンドネオン・トリオのユニット名、第3部1曲目の曲名をご教示頂きました。ありがとうございました (2001/11/11)。
ヴァイオリンの会田桃子を中心とした四重奏「クアトロシエントス」 (数字の400の意) に、バンドネオンとヴァイオリンを一人づつ加えた拡大版六重奏「セイスシエントス」(同様に600の意) のライブ。 古典から現代までを幅広く扱った意欲的なプログラムで、演奏も非常に充実した素晴らしいものであった。
第1部では古いタンゴの数々が演奏されたが、これが非常に良かった。 特に2曲目の「ロカ・ボエミア」は現代タンゴの祖、 フリオ・デ・カロの六重奏団による何とも艶のある雰囲気が再現され、 素晴らしかった。 この他、いずれも古めの曲をちょっとモダンに編曲したものが並び、 大変楽しめた。 中でも「カタマルカ」「夢の中で」など彼等ならではのレパートリーがますます充実。
第2部ではピアソラ作品ほかバラエティーに富んだ内容が、 いずれも少人数の編成で各人のソロを活かして演奏された。 目玉は何と言っても初公開の会田のヴォーカルであろう。 本人の弁では「歌を練習すればヴァイオリンも歌うように弾けるかも」 という発想で歌のレッスンを受け始めたそうであるが、 完全に余技の範囲を越えた素晴らしい歌唱であった。 次いで、ゲストの早川純を加えたバンドネオンのトリオとコントラバス (Bandoneon Gallardoというユニット名とのこと) による 「ディベルティメント・パラ・バンドネオン」、 北村と佐藤による「エル・アンダリエーゴ」が強い印象を残した。 2部の締めの「ブエノスアイレスの冬」も実に美しい演奏。
そして強烈だったのがピアソラとロビーラの作品ばかりを集めた第3部である。 西島による超重量級の名演「キチョ」、 会田のヴォーカルが胸に迫る「チキリン・デ・バチン」などのピアソラ作品も凄かったが、 ラストでたて続けに3曲ロビーラ作品が続いたのは圧巻であった。 ひたすら暗く、しかも純粋に美しい「群衆の中の孤独」、 ヒップでクールでアヴァンギャルドでありつつ一瞬の耽美的表現が何とも言えない「ソニコ」、 プグリエーセ楽団のためにビクトル・ラバジェンが書いたドラマチックな編曲が曲の魅力を飛躍的に向上させた「エバリスト・カリエーゴに捧ぐ」と、 3曲3様の魅力で、とにかく圧倒されてしまった。 中でも六重奏の厚みを活かした「ソニコ」の格好良さは鳥肌もの。 アンコールでも再演され、出演者たちの気合いと愛着が直に伝わってきた。
ところで、今回最も驚いたのは、グループのリズム面での著しい進化である。 一言で言えば重心が下がった、という感じであろうか。 以前のクアトロシエントスや会田トリオでの演奏は、 勢いはあっても重みに欠けるという印象があった。 会田の突っ込み気味のフレージング (タンゴ的には決して悪くない) に対して周囲も一緒に走ってしまう、というような感覚が見受けられたのだ。 しかし今回の演奏では、 突っ込み気味のソリストを受け止めつつリズムをキープするベースとピアノが頼もしく、 テンポが速めの曲でも軽くならない。 生み出されるグルーヴはまさに重心が低く、心地良いものであった。
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